第45話 買ってきたゲーム

 念願のプレスステーションを手に入れて1年ほど経過。 
 いつものようにボクは学校から帰ってゲームをしていると、
「新しいゲーム買って来たからちょっと変わって」
 と兄がボクに告げてきた。
 新しいゲーム!?
 ボクはすぐさま自分のやっているゲームを終了させ兄に譲った。

 小学生のボクにとって新しいゲームソフトを迎え入れることは最上の喜びだった。
 まだボクは小学生なので、ゲームを買ってもらうのも、自分のお年玉で購入するのも全ては父の許可が必要だった。
 父がうんと言わなければゲームは手に入らなかったのだ。
 その点、兄はもう高校生。
 そこらへんは自分の判断でどうにでもなる年頃なのだ。

 ボクは兄がどんなゲームを買ってきたのか楽しみで仕方がなかった。
 兄はこれまでに「ファイナルファンタジーⅥ」や「クロノトリガー」を我が家に招き入れた功労者。
 ボクがもし王様だったなら爵位を与えていたところだ。

 今回もボクはかなり期待していた。
 きっとまた名作を仕入れたに違いない!!
 しかし、期待は裏切られることになる。
 兄が買ってきたゲーム…それは「バイオハザード」だった。

 バイオハザードは今でこそ全世界に名の知れた名作中の名作だ。
 しかし、当時は今ほど有名じゃない。
 というか、バイオハザードの処女作だ。初代だ。
 ボク自身も
「あ、これ怖い奴やん…」
 という認識だった。

 兄がプレイする斜め後ろで見守るボク。
 ゲーム画面でゾンビがうごめき、プレイヤーを襲う。
 今の子供たちからすれば正直笑っちゃうくらいのゲームグラフィックでも当時では最先端だ。
 現にボクにはゾンビがとてもリアルに見え、おぞましい以外の何物でもなかった。
 不気味なBGMが常に恐怖感を与え、扉を開ける演出でさえも怖かった。
 
 兄も
「怖ぇ~なぁ、これ」
 と言いながらプレイしていた。
 ボクは悟った。
「これ、ボクには無理だわ」
 とプレイするのを諦めた。

 それからというものボクは兄の見守りに徹することにした。
 自分でやるのは絶対に嫌だけど、見るのは好きです!!…みたいな。
 兄がプレイしているときは必ず横に居たような気がする。

 ある日、夕飯を食べた後に兄がバイオハザードをプレイしていた。
 当然のようにボクも見守る。
 そこへちょうど洗濯物をたたみに来た母が来た。
 母は洗濯物をたたんでいるが、自然と視線はテレビの方へ行ってしまう。
 兄がプレイしているのを眺めていた。
 そんな母にバイオハザードが牙を向く。
 初代バイオハザードの演出の一つにゾンビ化した犬が窓を突き破って主人公を襲うシーンがある。
 たまたま母がこの演出に居合わせたのだ。

「——バリン!!」
 窓を突き破る音がテレビから発せられる。
 母はこれに思いっきり驚いた。
「ん゛あーーー!!」
 声を上げて怖がった。
 そしてすぐに、
「びっくりするがねぇー!!」
 と怒りをボクらにぶつけてきた。

「いや…ホラーゲームだし」
 と言うしかなかった。

 この当時の様子を世にバイオハザードを生み出したカプコンさんが見たら手を叩いて喜んだと思う。
 
 カプコンさん、あなた方は見事、我が家を恐怖のどん底に陥れました。
 これからもそんな素晴らしいゲームを期待しています!!

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