第65話 母:数独とクロスワード

 先日の間違い探しの流れに続いて、新聞の付録ネタで行こう。
 ちなみに現在進行形の話である。
 母は、数独とクロスワードにハマっている。
 これには父が関係している。

 お正月になると、新聞には必ずクロスワードがくっついていた。
 そんなもの普通は目もくれないのだが、父だけはよく暇つぶしにやっていた。
 一度、父の取り組む姿が面白そうに見えたのでボクもチャレンジしたことがある。
 しかし、小学生だったボクは文章が理解できず、加えて言葉を余り知らないがために、一マスも埋めることができなかった。
「つまらん!!」
 それ以来一度も手を付けていない。

 時が経つにつれ、新聞の付録がゴージャスになる。
 クロスワードだけでなく、数独も追加されるようになった。
 数独ブームの襲来だ。
 これが父にウケた。
 ボクはというと、
「なんで休日に頭を使わないかんのだ」
 という残念な思考の持ち主なのでハマらなかった。
 頭を使うのが嫌いなのだ。
 そんなボクを他所に父は新聞の付録だけでは飽き足らず、数独の本まで買い始めた。
 老眼鏡をかけて、必死に解いていた。
 いい趣味に巡り合えたんだなと思った。

 そして数年前、ボクが実家に帰省したとき、変化が起きた。
 母が数独をやっていたのだ。
「あれ?あんたも数独やるようになったの?」
「うん、なんか始めた」
「へぇ~」
 意外だった。
 母はそういうことはあまり好きじゃないと思ったから。
 新鮮だった。
 それからというもの、夜のちょっとした時間に父と母は数独をやるようになっていた。
 ボクが寝転びながらテレビを見る横で、数独に興じる父と母の姿はシュールだった。

 数独にハマった母がクロスワードに興味を示すのも時間の問題だった。
 新聞の付録は必ず母がやるようになった。
 父は取り上げられてしまったのだ。
 母が取り組む傍ら、父がそれを見守るというような構図だ。
 クロスワードの本を買えばいいのだが、そこまでではなかった。
 新聞の鞘に収まる程度の遊びであった。

 ある日、いつものように母がクロスワードに取り組んでいた。
 母は答えに悩む。
 そのとき父が
「ほにゃらら」
 と答えを言ってしまった。
 本人からしてみれば助け船のつもりだったのだろう。
 しかし、それが母の怒りを買った。
「すぐそうやって邪魔する!!」
 父はびっくりする。
「なんでぇ~、ちょっと教えて上げただけじゃん!!」
「いいの、止めて!!あっち行って!!」
 母は本気で怒っていた。
 夫婦喧嘩ってこうやって些細なことから始まるんだなって思った。
 夫婦って難しいな~と思った。

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