第52話 父:いつも息子がお世話になっております

 社会人になってまだ間もない頃、一度、会社の先輩を父の飲食店に連れて行ったことがある。
 これはボクの地元の花火大会に行くときに、事前にちょっと腹を満たしていこうということで、立ち寄ったのだ。
 もちろん急に行くと、父もびっくりするし、他のお客様にもご迷惑になるので事前に知らせておいた。
 だから心の準備はできていたはずだ。

 しかし、いざご対面となると父の表情は硬かった。
 そして恥ずかしそうに、
「いつも息子がお世話になっております…」
 と先輩の目を直視できずに小さな声で言っていた。
 本当なら父の恥ずかしがる姿に爆笑したかったのだが、ボクだけ笑うと場がしらけてしまうので我慢しておいた。
「じゃあ適当に頼むからさ、お願いね」
 と早々に調理場に戻ってもらった。

 でも、このことは後でしっかり母に報告した。
 花火大会を終えて、ボクは実家に戻ったのだ。
 ただいまを言った後にすぐに話した。
「今日さぁ、おやっさ (父)さぁ、先輩に「いつも息子がお世話になっております…」ってめっちゃ恥ずかしそうに言ってたよ。ぎゃははは!!」
 それを聞いて母は案の定、ゲラゲラと笑い出した。
 そしたら父が、
「そんなことねぇぞ~」
 と負け惜しみのようなセリフを吐いていたので、
「へへへへ!!」
 とバカにするように笑っておいた。
 父も観念したのか、一緒にゲラゲラと笑っていた。

 でもこのシーンをもう一度見たいか?と問われたら、答えはNOだ!!
「共感性羞恥心」というものだろうか?
 こちらまで恥ずかしくなるのだ。
 今でも思い出すだけで体がかゆくなってくる。
 やはり息子としては、父の恥ずかしがる姿をみたくない。
 父は父らしくあってほしい。
 それがボクら家族の一番望んでいる姿である。

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