第78話 母:ハーゲンダッツ抹茶味
これは数年前の出来事。
ボクは実家に帰るときに当たり前だが事前に連絡をする。
いきなりふらっと帰ることはない。
「〇日に帰るよ~」
と一報をいれるのだ。
すると、母は
「何食べたい?」
と聞いてきてくれる。
泣かせるじゃないか、我が子の好きな料理を作ってくれるなんて。
だからボクは決まって
「かつ丼でお願いします」
と答える。
ボクはソースかつ丼が大好きなのだ。
だからボクが実家に帰ったときは、決まってかつ丼を食べていた。
ボクは普段自炊をするのだが、揚げ物はしないのだ。
1人だし、油の処理も面倒だし。
揚げ物は作らない。
だから家でかつ丼が食べられるのは嬉しかった。
このときだけは腹八分目という制限を無視して腹に詰め込められるだけ詰め込んだ。
「あ~、食った、食った~」
お腹がいっぱいになり、ぽっこり出たお腹をさする。
おいしいもので腹も心も満たされてボクは幸せに浸っていた。
すると母が言ってきた。
「アイスあるよ」
「え~、でも今、腹ポンポンだからいいよ」
アイスは好きだがさすがに遠慮する。
「いいから、いいから」
と無理やり母はボクの前にアイスを持ってきた。
「もう食えんよ…うん?これハーゲンダッツはいいけど…抹茶味じゃん!!」
「ものすごくおいしいから食べてみ!!」
「いや、おいしいのは知ってるけど、抹茶味でしょ?別に好きだけど…う~ん、やっぱ後で食べるよ」
しかし母は食い下がらない。
「本当においしいって。食べてみ!!」
どうやら意地でも食わせたい様子。
「う~ん…」
ボクは面倒くさそうにハーゲンダッツの蓋をとる。
一口だけ食べて納得して許してもらおうと思った。
しかし…
「うまっ!!何これ!?めちゃくちゃうまいじゃん!!」
「そうでしょ?おいしいでしょ?」
それ見たことか!!みたいな顔をしていた。
でも本当においしかった。
結局、ボクはお腹がいっぱいだったのにあっという間に食べてしまった。
「あ~、うまかったぁ」
ボクはスプーンをお盆の上に置く。
舐めてた。さすがはハーゲンダッツといったところか。
うん、めちゃくちゃうまかった。
だからボクは言ってしまった。
「いやぁ、今日食べた中でこのハーゲンダッツ抹茶味が一番うまかったや~」
それにすかさず母が反応した。
「んだと!?」
スパン!!と頭を叩かれた。
一生懸命ボクのためにかつ丼やみそ汁を作ってくれたのに、ハーゲンダッツ抹茶味が一番うまいと言ってしまった。
でも実は計算ずくの発言だ。
こう言えば、母は反応してくれるだろうと思っての発言だった。
そしたら思った通り、頭を引っぱたいてくれた。
「へへへへっ」
とボクは笑わせてもらった。
楽しいやり取りだった。
でも、ハーゲンダッツ抹茶味は本当に衝撃的だった。
たまにぜいたくしたいときに食べようとボクは心に誓った。
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