笑顔

　ある男の１日は新聞に目を通すことから始まる。
　郵便受けから折りたたまれた新聞を取り出す。
　開けば一面記事がでかでかと大きな見出しを付けて載っている。
　しかし男は一面記事を飛ばす。
　代わりに男はまずスポーツ記事から読み始めるのだ。

　男はなぜスポーツ記事から読み始めるのか？
　それは大概明るい話題が書いてあるからだ。
　誰かの晴れ晴れしい活躍。
　絶え間ない努力で勝ち取った栄誉。
　男はそんな記事に感動を覚え、勇気をもらい、自分も頑張ろうと意気込む。

　スポーツ記事を読み終えると、男は一面記事に戻り、順番に読んでいく。
　しかしそこに書いてあるのは大概悲しい話題だ。
　自分の知らないどこかで悲しい事件が起こり、そして自分の知らない誰かが悪事を働く。
　男はそんな記事を読み、胸に痛みを覚え、怒りが湧き起こり、そして悲しみにくれる。
　先ほどは胸が熱くなったというのに、今はひどく冷えている。
　自分の心はこんなにも冷めやすいものだったのかと疑問を抱いてしまうほどに…

　一面記事は読者にインパクトを与えることが重要視される。
　良くも悪くも、悲しい話題はインパクトがある。
　それは読者の目を引くことができるということであり、それが売り上げに繋がるのだ。

　こんなことを書いていると、悲しい話題ばかりを目にしているように思われるが、実はそうではないらしい。
　現に悲しい話題より明るい話題を求めて検索をしている方がずっと多いそうだ。
　私たちは知らずのうちに明るい話題を求めているのだ。

　２０２１年現在、世界人口は約７８億人。
　その数はこれからも増えていくそうだ。
　私は７８億人の１人であり、あなたも７８億人の１人である。
　この１人ひとりが昨年より１回でも多く笑顔になれば、単純に今年は世界で７８億回分、笑顔の回数が増えることになる。
　笑顔の回数が増えたことで世界にどのような影響があるかは分からない。
　でも減るよりは増えた方がいいじゃないか。
　悲しみから幸せは作れそうにないが、笑顔からは幸せが作れそうな気がする。
　だったら笑おうじゃないか。
　些細なことでも。
　あなたの笑顔があなた自身の幸せを作り、そして誰かの幸せを作って行く。
　あなたの笑顔はそんな魔法のような力を持っているのかもしれない。