第16話 FPS

「げぇー!!殺されたぁ!!」
 男は楽しそうに笑いながら恐ろしい言葉を放つ。

「いやぁ~、さっきの対戦相手めちゃくちゃ上手かったなぁ」
「あぁ、いいようにしてやられたって感じだ」
「何にもできなかったもん。逆に向こうは楽しかっただろうなぁ」
「お~い、2人とも!!そろそろいい時間だぜ!!」
「あっ、ホントだ!!今日は終わりにするか」
「そうだな。次はいつやる?」
「う~ん、週末まで無理かな。明日から出張なんだ」
「分かった。じゃあまた週末な」
「お疲れ」
「おっつ~」
 男はボイスチャットとゲームの電源をオフにした。

「はぁ~今日も楽しかったなぁ」
 男が遊んでいたゲームはFPSというジャンルのゲーム。
 一人の兵士となって、銃を片手に戦場を駆け巡るのだ。
 ゲームは至ってシンプル。
 対戦相手となった相手のプレイヤーを撃ち殺すのだ。
 言葉だけ聞くと非常に恐ろしいが、そんなゲームが今、世界中で大人気なのだ。

 男は風呂に入ろうと立ち上がったとき、ふと思う。
 戦争を体験している人たちは、このFPSというゲームをどのように感じるのだろう?
 ゲームのコントローラーを持ち、敵の人間に向かって銃を向け、そして撃つ。
 殺しても殺されても楽しそうに笑う。
 戦争体験者はボクらと同じように、ゲームだから…と割り切ることができるのだろうか?

 男は風呂に入りながら、小学生のときに戦争を扱った授業を思い出していた。
 当時の先生が、ご家族の方に戦争を体験している方がいて、もし聞けるようであれば聞いてみてほしいということを言っていたのだ。
 男は素直にそれを受け、そのとき健在だった曽祖父に聞いてみようとした。
 しかし、父親に止められたのだ。
「絶対に止めとけ」
 と釘を刺された。
 なんでも父も子供のときに同じように授業で習い、曽祖父に実際に聞いてみたそうだ。
 すると、
「あのときのことは思い出したくない」
 と機嫌を悪くしてどこかへ行ってしまったらしい。
 曽祖父にとって、戦争はあまりにも辛くて悲しいできごとだったのだと父は悟ったのだ。

 男は風呂上りにゲームのパッケージを手に取る。
「すごいよな。今の時代、なんでもエンターテイメントにしちゃうんだもんな」

 昨今のゲームはリアリティを追い求め、日常では体験できないようなことを疑似体験させてくれる。
 そして我々は、非日常であればあるほどそこに快楽を感じる。
 人間とはどこまでも欲に忠実な生き物であり、そして欲に際限のない生き物なのだ。

 FPSゲームは確かに楽しい。
 ただ、戦争の真実もしっかり学ぶことが必要であると男は思うのであった。

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