第70話 父:雪だるま
幼稚園の頃、父と雪だるまをたくさん作ったことがある。
夜に大雪が降り、翌日は30cmくらい雪が積もった。
飲食店を営む父は、
「こんな日に営業してもお客さんは来ないだろう」
とお店を臨時休業にした。
ボクも幼稚園が休みになった。
ただ、兄は小学校が休みにならなかったようで、しぶしぶ学校に行っていた。
子供にとって雪は最高の遊び道具だ。
ボクは外に飛び出て雪と戯れた。
そして一度作ってみたいと思った雪だるまを作ることにした。
自分の手のひらサイズの雪玉を転がして転がして、どんどん転がして…雪玉はみるみるうちに大きくなった。
大きくなるにつれ、雪玉を転がすのが困難になり、ついに道の真ん中で止まってしまった。
それを見て、父が慌てて助けてくれた。
車が来ていなかったのは幸いだった。
その雪玉はそのまま雪だるまの胴体となった。
ボクはすぐに頭の制作に取り掛かった。
一生懸命丸めて、そして遂に雪だるまが完成した。
「んふふ~」
ボクはその達成感に酔いしれていた。
そしてすぐに2体目を制作した。
父は、
「まだ作るの?」
と嫌そうな顔をしていたがしぶしぶ付き合ってくれた。
最終的に実に6体の雪だるまを作った。
家の前に3体。そして家の横に3体。
我が家を守るゴーレムだった。
ボクは満足感に浸って温かい家の中に入った。
午後はお日様が照り輝いていた。
「これだと雪だるますぐに溶けちゃうかな~」
と寝転びながら思っていた。
でも違った。それより前に雪だるまは終わりを迎えることになった。
家の中にいると、外から小学生の笑い声が聞こえた。
そう、学校帰りの子供たちが、ボクが一生懸命に作った雪だるまをバカにしていたのだ。
兄も学校から帰って来た。
そしてボクに言ってきた。
「おい、なんか家の外の雪だるまボロボロだぞ」
「えぇ!?」
ボクは慌てて外に出た。
すると、ゴーレムこと雪だるまたちは小学生が傘で突いて、穴だらけになっていた。
腹が立つより、悲しさの方が大きかった。
「なんでこんなことするの?」
あれはひどいと思った(笑)
ちなみに、後日、近所の子供が家の横にあった雪だるまを飛び膝蹴りで止めを刺していたそうな。
その日、ボクは学んだ。
日本人とは、雪だるまを見たら優しく微笑むのではなく、破壊衝動に駆られて壊してしまう、大変野蛮な人種なのだと。
だからあれ以来、ボクは雪だるまを一度たりとも作っていない。
雪の精霊よ、ボクの雪だるまを壊した者たちに天罰を!!
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