第76話 兄:トイレットペーパー

 ボクはよく、トイレットペーパーの有無を確認せずにトイレに入る。
 うんちをして、お尻を拭こうとしてトイレットペーパーに手を伸ばすが、
「あっ!!紙がねぇ!!」
 一気に大ピンチになる。
 そんなときボクは力の限り母に助けを呼ぶ。
「お母さぁーーーん!!」
 気が付いてもらえるまで何度も叫ぶ。
 すると、
「なぁーに!?」
 怒った感じで廊下から母の声が聞こえる。
 ボクは状況を伝える。
「トイレの紙がありませーーん!!」
 声のトーン的には踊る大捜査線の
「レインボーブリッジ閉鎖できません!!」
 をイメージしてもらえればいい。
 切迫した状況を母に伝えるのだ。
 それを聞いた母はいつも舌打ちをしながらトイレットペーパーを取りに向かう。
 そして戻ってきて
「置いとくよ!!」
 と廊下に救いの神ならぬ紙を置いて立ち去る。
「ありがとうございます!!」
 ボクは事なきを得る。

 しかし、これはボクだけじゃなかった。
 兄も同様だった。
 さすが兄弟。
 バカなところばかり似る。
 そんなボクらを見て、母はよくため息をついていた。

 しかし、それを繰り返しているうちに母がついにしびれを切らした。
「あんたらねぇ、トイレ入るときくらいトイレットペーパーがあるかどうかくらい確認しなさい!!」
 あまりのバカさ加減にもう耐えられなかったのだろう。
 しかし、ボクらはその上を行った。
「いや分かるけどさぁ…でも、うんちしたいときにそんなこと考えるの無理だよ」
 ボクは平気な顔をして言い放った。
 兄がどう答えたか覚えてないが、とりあえずボクと同じで微塵も反省してなかったと思う。
 手のかかる子供だった。
 ちなみに、ボクらはこのとき高校生と大学生であった。

 母は仕方がないので小物入れを買ってきた。
 もう言っても無駄だと悟ったのだろう。
 その小物入れにトイレットペーパーを1つ入れて、それをトイレのすぐ横にある洗面所の端に設置した。
 トイレの扉を開ければすぐ手が届く場所にトイレットペーパーがあるという仕様だ。
 言わば、危機回避のための緊急用トイレットペーパーだ。
「もうバカなことで私を呼ぶな!!」
 という母の意思表示だったのだろう。
「あっ、紙がねぇ!!おーい、しょうが焼き~!!」
「…あっ、ここにあるわ。いいわ、いいわ。大丈夫!!」
 こんな感じで兄もボクも大変助けられた。

 ボクらのために備えられた緊急用トイレットペーパー。
 しかし、ボクらはその補充をしなかった。
 その緊急用のトイレットペーパーを補充するのはいつも母の役目だった。
 もう一度言おう。
 本当に手のかかる子供である。

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