第20話 この世界に悪役は存在しない

 私たちが住む世界にはマンガに出てくるうような世界を滅ぼそうとする者は存在しない。
 しかし、人類は争いを繰り返している。
 まるで争いと共に歩んで来たように。
 民族対立、宗教対立、資源の奪い合いなど理由は様々だ。

 争いを繰り返す人類は愚かだと誰かが言う。
 確かにそうなのかもしれない。
 しかし、争いの中に生きる人々は決して愚かではない。
 人を殺したくて争いを始める者などいないだろう。
 今日を生き抜くために、明日を生き抜くために。
 人々は戦う。
 自分のために。
 家族のために。
 尊厳を守るために。
 祖国の平和のために。
 そこにいる生きる人々にそれぞれの想いが込められている。
 誇り高き人間だ。

 しかし、争いである以上命が奪われる。
 年老いた父母を想い、涙を流す男が敵に向かって剣を振り下ろす。
 その剣を受ける男は故郷に残してきた妻と子供の幸せを願っている。
 どちらかの命が奪われ、どちらかの命が救われる。
 非情な世界。
 誰かが笑う一方で、誰かが涙を流す。
 全ての者が涙を流すことはあれど、全ての者が笑顔になることはないのだ。

 争いはなくならない。
 これまでも、そしてこれからも。
 この世界に悪役が存在しなくとも、決してなくなりはしない。
 そこに正義がある限り。
 誰かの正義と誰かの正義がぶつかり合う。
 己の正義を貫くために。
「W・e a・re r・ight」
「私たちは正しい」
「W・A・R・」である。

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