第31話 父:プラネタリウム

 これは父から聞いた話だ。
 ボクは小さかったからか、全く記憶にない。

 以前、家族4人でプラネタリウムを見に行ったそうだ。
 投影機から光が発せられ、ドーム型の天井に星が映し出される。
 非常に美しい。
 ご丁寧に星の解説をしてくれる。非常に勉強になる。

 しかし、それはある程度の年齢になってからだ。
 小さかったボクにはそれが理解できない。
 それに、いくら天井に映し出された星がきれいだろうと、ずっと見ていられるものじゃない。
 飽きてしまう。

 そんなとき、天井にある歌詞が映し出された。
 ボクの横にいた父は思ったそうだ。
「あ、まずい!!」
 しかし遅かった。
 それを目にしたボクは…
「でた~、でた~、つきがぁ~、まぁるい、まぁるい、まんまるい~」
 歌ってしまった…大声で。

 プラネタリウムを鑑賞している方たちは驚く。
「なんか変な子が歌い出しちゃった」
 きっとそう思ったに違いない。
 すると、すかさず係員の方が飛んできた。
「他のお客様のご迷惑になりますので…」
「すみません…」
 父とボクは強制退出となった。

 ここで憎たらしいのが、母と兄は咄嗟に他人のフリをしたことだ。
「私たちは関係ありません」
 というように。
 家族は一蓮托生ではないのか?

 父は母と兄が外に出てくるまで時間を潰さなきゃいけなかった。
 肝心のボクはといえば、全く気にせずそこらへんで遊んでいたようだった。

 ちなみに今思うのは、なぜプラネタリウムで「月」の歌詞が出てきたのだろうか?
 そして、歌詞が読めたということは、幼稚園の年中?年長?
 まぁまぁの年齢じゃないかと。
 それなのに全く記憶に残っていない。

 これはもしかしたら余りに恥ずかしい記憶なので脳が封印したのかもしれない。
 

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