第83話 父:エスティマ

 時代は1990年代。
 その頃はまだセダンの車が主流だったかな?
 そんなときに出てきたのがエスティマ。
 ミニバン時代を築く先駆けとなった車と言ってもいいかもしれない。
 そんなエスティマに父は早い段階から乗り始めた。
 別にエスティマに憧れて購入したわけではなかったそうだ。
 飲食店を営んでいるため、食材などを運ぶ理由などからこの車を購入したのだ。

 今でこそ…というか販売が終了してしまったのだが、エスティマはものすごく人気があった。
 しかし、父が買った当時はセダンが主流の頃。
 だから父的にはなかなか恥ずかしかったようだ。
 当時のボクは全然そんなことを知らなかったが、5年くらい前にポロっとそんなことを漏らしていた。
 あの卵型が嫌だったんだろうか?
 まぁ子供のボクとしては車の外見なんてどうでもよかった。
 乗っていて楽だったので、ボクは好きだった。

 確か、「ツイスター」という映画で、竜巻を追っかけるライバルたちの車がこのエスティマだったと思う。
 ボディが黒くて、ものすごくカッコ良かった。
 映画を観ながら、
「あれ?お父さんと同じ車だよな?なんかめちゃくちゃカッコよく見えるんだけど…」
 そんな思いを抱いたのを覚えている。
 映画を観終えて、駐車場に戻る。
 ボクは茫然と立ち尽くす。
 エスティマもそしてそれに乗る父もあまりカッコよく見えなかった。
「おい、帰るぞ」
 現実に引き戻された気分になった。

 まぁ確かに見栄えがいいのは、映画の方だろう。
 車をピッカピカに磨いて、カッコいい俳優が乗る。
 それだけで売り上げは爆増だ。
 しかし、どちらが似合っている?と問われたら、それは間違いなく父の方だ。
 生活感がにじみ溢れている。
 カッコ良くはないが、エスティマが似合う男。
 そんなキャッチフレーズを息子から父に捧げたい。

 世界各国で長い間愛され続けてきたエスティマ。
 我が家にとってもかけがえのない車でございました。
 お疲れ様でございました。
 ありがとうございました。

 トヨタ自動車さん。
 もし、父にモデルになってほしい車がございましたらご一報ください。
 ただし、売り上げの貢献はできそうにありません(笑)

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