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【卒業生が振り返る】高校時代のPBLから得た学びとは?

「1/1教育」を理念に掲げて、全国に54キャンパス(2023年4月時点)を展開する通信制の第一学院高等学校では、生徒たちが自身の関心に合ったテーマでPBL(Project Based Learning)を行っています。PBLを進めていくには、自己表現や他者受容ができる心理的安全性が担保されている環境が不可欠です。そこで、5年前からrokuyouではSELのアプローチからPBLにおける学びの土壌づくりを第一学院高等学校とともに行っています。

今回は、2021年の卒業生・三浦邦仁さんに自身のプロジェクトを振り返っていただきました。また、担当していた伊藤香織先生にもともに当時を思い返していただきました。聞き手は、rokuyouの町塚がつとめます。

卒業生の視点から取り組みを見直す貴重な機会をお届けできればと考えています。ぜひ、PBLに取り組むすべての学校の参考にしていただけたら幸いです!
(本記事は第一学院高等学校で実施した「プロジェクト深化会-ふかふかイベント-」の内容を編集してお届けします)

■■プロフィール■■
三浦邦仁(みうら くにひと)
2021年3月 第一学院高等学校横浜キャンパス卒業
2021年4月 デジタルハリウッド大学入学
2023年8月 デジタルハリウッド大学3年(現在)
ウェブサイト作成や動画編集、マーケティングを専攻

プロジェクトスタート時のもどかしさ

町塚 三浦さんが取り組んだプロジェクトについて教えてください。

三浦 「フィリピンの経済的に厳しい子ども達に文房具を届けよう」というプロジェクトに取り組みました。

取り組んだ流れは下記の通りです。
1. インタビュー(実情を調査)
2. 具体的な計画を立てる
3. 近隣の小中学校へ協力を呼びかける
4. 街頭募金
5. 実際に文具を届ける

最初に直面したチームとしての課題は、「貧困と教育」をテーマにしたいと考えているものの、漠然としており具体的なゴールが定まらないというものでした。担当の伊藤先生から「できるところまでやってみよう」と応援してもらい、「それならば!」と半分ヤケクソのような気持ちでできるかわからないけれど、実際に文房具を届けるというゴールを設定しました。

さらに、難しかったことは街頭募金です。プロジェクトを行っている当時、僕らは3年生。チームメンバーのほとんどが街頭募金を行う期間と、受験の期間がかぶってしまい、全員が集まれる日を確保することが困難でした。限られた期間で目標額10万円を集めるために、後輩にも協力をお願いしたり、伊藤先生にも手伝ってもらったりしながら、なんとか達成することができました

町塚 どのようにチームが結成されたのか、また、プロジェクトとしてのゴールはどのように決まっていったのでしょうか?

三浦 僕が参加したのは3年生からでしたが、元々2年生から取り組んでいる子たちがいました。2年時は、近隣の小学校に「貧困問題とは何か」について授業をしにいくというプロジェクトに取り組んでいたようです。3年生になり、僕も含め新しいメンバーが加わって、具体的に形にしていくということになりました。しかし、忙しいですし、正直、みんなやる気があるとは言えない状態でした。

しかし、「できる・できない」は横に置いておいて、やれるならどこまでやりたいかという雑談はしていたんです。貧困ときいてパッと思いついたのがフィリピンの状況でした。そして、小中学校の子ども達に何かしたいね、という話に展開していったんです。

「文房具を届けるのはどうかな」というアイデアが出され、賛同しつつも、フィリピンの学校の先生と交流もなく、送る文房具もなく、お金もない。どこかで「無理だろうな」と思いながらふわふわと進めていました。そんな時に、伊藤先生とぶつかったんです。「そんなやる気ない態度でいいの?」と言われ、お互い気持ちをぶつけ合っているうちに、「だったらやってやろう!」と火がつきました。自分たちの力でやり切りたいという思いが湧いてきたんです。

町塚 伊藤先生は三浦くんのグループとぶつかった時のことを覚えていますか?

伊藤 彼らは斜に構えているように見えたのですが、何かやりたいという思いがあったからこそ、フィリピンの貧困問題に目が向いたはずなんですよね。プロジェクトは成果がすべてではありません。過程の中からたくさんの学びがあります。しかし、本人たちは進路を目前に何か成果を出さなければという焦りもあったように思います。そんな背景からか、「何かをやりたい」という素直な思いを曲げてアプローチしてきていたので、そこがぶつかったポイントだったと思っています。

とはいえ、ぶつかるだけでは彼らは前に進めないですよね。大きな問題のほんの一部でもアプローチできるように、やりたいことを分解していくことで、自分たちにもできることがあると思えるようになったと感じています。感情と提案をセットで伝えたことで、前進し、最後までやり切ることにつながったのかもしれませんね。

町塚 rokuyouでは挑戦性と心理的安全性を加味しながらゴール設定をすることを重視しています。三浦くんのグループから挑戦性が自発的に生まれてきたことが素敵だと思いました。一方で、「貧困と教育」という壮大なテーマに対して、自分たちの手が届きそうな取り組みにしていくという心理的安全性の担保も大事ですよね。両方がせめぎ合いながら、横浜キャンパスらしい最終形になっていったのだと思いました。

プロジェクトを繰り返し、成長につなげる

町塚 文房具をフィリピンに届けるプロジェクトは、三浦くんにとってファーストプロジェクトだったのでしょうか?

三浦 PBL活動は初めてではなく、2年生の時に別のテーマで取り組んだことがあります。しかし、中途半端に終わってしまい、成功はしていませんでした。それ以前は小学生や中学生の時に授業の一環で、先生が提示したアクションに則って進めていくという経験はありました。

町塚 伊藤先生は三浦くんをどのように見ていましたか?

伊藤 私から見て三浦くんは、PBLサイクルの2周目に立っていたように思います。1周目の段階では、「戦争をなくしたい」といったテーマに持って取り組んでいました。戦闘地域に赴いてNPO活動をしている方へ、文書を介してインタビューを行っていました。

「戦争をなくしたい」というテーマが広すぎたということや、インタビューをしただけではほしい情報が得られず、プロジェクトとしてまとめきれなかったように見えました。

その経験があるからこそ、「貧困と教育」というテーマに取り組んだ際には、インタビューだけでは得たい情報が得られないということがわかっていたのではないでしょうか。また、大きな問題を小さく分解していく必要があるという私との話も納得感があったのだと思います。

町塚 たとえ1周目の経験がうまくいかなかったように思えても、そこから学び、2周目につなげていくことができているということですね。伊藤先生の話を聞いて、三浦くんは1周目の経験をどう振り返りますか?

三浦 1周目のインタビュー後には、戦争で負傷して腕や脚を失い身体的な障がいを負った方々に寄り添いたいと思うようになりました。しかし、それでは戦争をなくすことにはつながらないんですよね。どう進んでいったらよいかわからず、曖昧な状態になってしまいました。

失敗したことで、本当にやりたかったこととインタビューでリサーチしたことに乖離があったということに気付くことができました。そのため、「貧困と教育」という新しいテーマでメンバーと活動する時には、自分がやりたいことと相手が必要としていることの需要と供給が成り立つように考えることを意識して取り組みました。

町塚 プロジェクトは、自分自身がやりたいことだけで成立するのではなく、相手にとっても必要性があるものにしていくことが重要だと、ファーストプロジェクトをやって気づいたのですね。

プロジェクト経験は「今」と「将来」にどうつながるか?

町塚 高校時代のプロジェクトの経験は、現在やその先にどうつながっていきそうですか。

三浦 プロジェクトの経験は、大きく2つの意味から大学生活の力になっています。1つ目はプロジェクトへの気持ちの持ち方で、2つ目はグループワークを成功させる上で大事なことをつかめたことです。大学の授業やインターンシップ先でのグループワークで、最初にゴール設定をして、認識に齟齬が出ないよう細かなコミュニケーションを取っていく力は、PBL活動で培えたと思っています。

また、大学生になってから伊藤先生と当時のことを振り返りながら話す機会があり、そこで1つの答えが出ました。PBL活動をする以前の僕は少しでもよく見せようと見栄を張っているようなところがありました。「これは知っているよ」「これもできるよ」というように虚勢を張っていたんです。しかし、PBL活動で社会と関わる中で、見栄は一切必要なく、どれだけ真剣にプロジェクトに取り組んでいるのかこそが大事だということに気づきました。協力してもらうためには、正直な気持ちでぶつかり合うことが一番大事なのだと思えたのです。そして、社会では正直な気持ちでいないと通用しないのだということも学びました。

実は、大学受験の際には同じチームから志望した仲間がおり、蓋を開けてみるとプロジェクトの話が評価されないという事態に遭遇したんです。頭が真っ白になり、「これは不合格かもな……」と思ったのですが、結果は合格。おそらく、面接に正直な自分でのぞみ、偽りのない自分でいたからこそ合格に繋がったのではないでしょうか。

そして、PBL活動は、自分はどう社会と関わっていきたいのかを考える機会になりました。社会と関わる大きなプロジェクトになればなるほど、こういった考え方や価値観が培われていくものなのではないでしょうか。

町塚 プロジェクト活動を進めるテクニックよりも、自分自身をメタ認知することや内面の変容につながっていったのですね。伊藤先生は生徒の内面の成長につながっていくように意識して関わっていったのでしょうか。

伊藤 元々プロジェクト活動が生き方に影響を与えるということは聞いてましたが、当時の私は「これが生徒の生き方にどう影響するのだろうか」という自分への問いと重ねるように生徒と向き合っていました。ただ、プロジェクトの成果を評価するのではなく、何を学んだのかを言葉にできることが大事だということはわかっていました。だから、ある程度見える形にすれば言葉にもしやすくなるので、生徒の状態に合わせて様々なアウトプットを促してはいました。

三浦くんの話を聞いて、一つ、rokuyouとの取り組みで思い出したことがあります。rokuyouとの教員研修で、「氷山モデル」のワークを実施していますよね。実は、私はなぜ氷山モデルのワークでPBLのファシリテーションを学ぶのかがあまり結びついていませんでした。三浦くんに「自分は見栄っ張りだった。嘘をつく必要はなかった。大学生になってやっとわかった」と言われた瞬間に、氷山モデルの意義を深く理解できました。

町塚 三浦くんと伊藤先生との関係として、お互いに一人の人として本気で向き合っているという特徴がありそうですね。改めて、伊藤先生とのやりとりの中で印象に残っているのはどんなことでしょうか。

三浦 プロジェクトの期間中よりも、プロジェクトが終わってからのことが印象に残っています。プロジェクトは成功したけれど、「自分がどう成長したのか」、「考え方の変化はあったのか」を問われた時のことです。当初は「プロジェクトとして成果を出したい」「受験にそれを活かしたい」という気持ちで取り組んでいたので、プロジェクトを成し遂げることをゴールにしていて、「できたら100点だけれど、できなかったら0点だ」という感覚を持っていました。

だから、プロジェクトを通して「自分の考え方がどう変わったか」と問われた時に、「たとえ失敗していても成長はあったのだろうな」とその問いかけによって気づくことができました。PBL活動は課題解決型学習といいますよね。だから、課題を解決することにこだわっていたのですが、自分の成長につながることが一番大事なのだと、PBL活動が終わってから理解しました。

町塚 プロジェクト活動中はとにかくやり切る、成功させることに必死になったからこそ、終わった後の問いかけでハッとした気づきがあったんでしょうね。そういった問いかけが、先生と生徒さんの中で生まれたり、場合によってはチームの中で生まれたりするということは非常に重要だと感じました。

これからPBLに向かう生徒たちへ

町塚 最後に、プロジェクトの1周目よりも手前くらいの自分に、今の自分からメッセージを伝えるとしたらどんな言葉をかけたいですか。

三浦 当時の自分にアドバイスをするのであれば、「もっとやりたいことをどんどん口に出して! 言わないと伝わらないよ」と一番伝えたいです。

「これからPBL活動を始めるけれど、何をしたらいいのかわからない」や「先生にこれを言われたけれど、本当に自分がやりたいことなのかわからない」といった子に関しては、PBL活動は成功の成果以外にも「成長」という魅力があるということを知ってもらいたいです。当時の僕のように、「プロジェクトをするならば成功できるものをやりたい」と思うかもしれませんが、それだけではないのです。例えば、自分の弱点や克服したいことを考えてみて、PBLを始めていく切り口にするのもアリかもしれませんね。

町塚 スタートは先生から提案されたプロジェクトだったとしても、そこで自分がなぜそのプロジェクトに取り組むのかを自分で意味付けできれば価値を見出せる可能性はあるということですよね。プロジェクト自体の成功と自分の成長としての価値、PBLは多面的ですよね。

伊藤 三浦くんのコメントを聞いて、プロジェクトをやり切るまでをゴールとするのではなく、終わってから教員がどう関わるかの重要性を改めて感じました。今回は、「何を深掘りしたいか」という思いを持って接すると、生徒はこんなに言葉にしてくれるんだと学ぶ機会になりました。

町塚 生徒の中での自己対話と先生と生徒の対話の中に可能性があるなと思いながら聞かせていただいていました。対話を重ねることで、非認知能力や自己認知などへの気づきも深まりますよね。忖度なくリアルなお話しをしてくださった三浦くん、伊藤先生、誠にありがとうございました。

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rokuyouでは、全国の学校においてSELによる学びの土壌づくりを行なっています。取り組みに関心をお寄せいただけた先生方とさまざまな情報交換をしながら、日本全体の教育のアップデートに力を注いでいきたいと考えています。ぜひ、ご感想やお問合せをお寄せください。

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