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ストック(資産)よりもフロー(利益)

[要旨]

事業活動を営む会社は、資産の規模、すなわち、ストックが大きい方が望ましいと考えられますが、ストックが大きいだけではあまり意味はありません。会社の資産は、株主からの出資金や、銀行などからの融資金が形を変えたものであり、株主や銀行からの期待に応えるために、その資産は利益を得られるものでなければなりません。すなわち、事業活動の目的は利益を得ることであり、利益を積み上げていった結果として資産規模が大きくなると考えなければなりません。

[本文]

今回も、前回に引き続き、嘉悦大学教授の高橋洋一さんのご著書、「明解会計学入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、いわゆる内部留保は、会計で使われる言葉ではなく、貸借対照表の純資産の部にある利益剰余金を指していますが、これは、これまでの利益の積み重ねであり、貸方にあることから、お金の出どころが利益であるということを示していると説明しました。

これに続いて、高橋さんは、会社にはストックが多いタイプと、フローが多いタイプがあるということについて述べておられます。「突然だが、『お金落ち』と聞くと、どんな人が思い浮かぶだろうか。親から受け継いだ資産がある人だろうか。それとも、自分で興した事業で、膨大な利益を得ている人だろうか。『お金をたくさん持っている』という意味では、どちらも『お金持ち』といえるだろう。しかし、会計的に見ると、両者には大きな違いがある。仮に、前者を『資産家タイプ』、後者を、『事業家タイプ』としよう。

資産家タイプは、『現時点での資産』、つまり、ストックがたくさんあるということだ。もし、いっさい働いていないとなれば、収入源は資産から得る利益や配当、家賃だけだ。それで生活費をまかないきれなければ、現預金は年々減っていく。資産の価値もいつ下がるかわからない。つまり、資産家タイプは、ストックを食いつぶす一方、フリーが低いために、ゆくゆくは貧しくなっていく危険があるということだ。一方、『事業家タイプ』は、『毎年の利益が多い』ということだから、フローがたくさんあるということだ。そして、毎年のフローがたくさんある人は、当然、資産も増えていくことになる。

これは、どちらが『本当のお金持ち』かという話ではない。ひと口に『お金持ち』といっても、すでに持っている財産が多い(ストックが多い)タイプなのか、毎年の稼ぎがいい(フローが多い)タイプなのか、そういう発想を持ってみることが大事なのだ。企業の経営状態を見る際にも、この発想が使える。PLの『営業利益』が前期より増していたら、ここ1年間の事業で、より多く稼いだということだ。うまい経営をしていると見ていいだろう。利益が増えれば、資産も増える、そんな企業の経営は、上り調子といっていい。

逆にBSには不動産などの大きな資産があるが、PLの『営業利益』が減っている企業はどうか。これは、過去に得てきた資産はあるものの、ここ1年は大して利益が上がっていないことを示している。事業がうまくいっていないと考えられるが、資産が多いということは、そこから、少なからぬ収益を得ているはずだ。受け取る利息や配当はPL『営業外収益』に、不動産の賃料は『売上』、不動産の売却は『特別利益』に計上される。『営業利益』が下がってはいても、過去に得てきた資産が、この企業の経営を下支えしているとも考えられるのだ」(74ページ)

高橋さんの説明に、一部補足を致します。高橋さんは、「不動産の賃料は『売上』、不動産の売却は『特別利益』に計上される」と述べておられます。まず、賃料は、不動産会社の場合は売上に計上しますが、主な事業が不動産業以外の事業の場合、例えば、機械製造業の会社の遊休地を駐車場として活用し、駐車料収入がある場合などは、その賃料は雑収入(営業外収益)として計上することが一般的です。また、不動産を売却した場合の売却益、すなわち、売却額と取得価額(帳簿価額)の差額は、一般的には特別利益として計上されますが、不動産会社が商品として所有していた土地を売却したときは、その土地の売却額は売上として計上します。

話を本題に戻すと、会社の資産の規模が大きいことは、一般的には望ましいといえますが、ただ大きいだけでは意味がないと考えるべきでしょう。なぜなら、会社の資産は、株主が出資している資本金や、銀行が融資している借入金が形を変えたものなのに、もし、その資産が利益をあまり生み出さないのであれば、株主や銀行の期待を満たさないということになります。ですから、一般的には、会社の事業の目的は、利益、すなわちフローを得ることが1番目の目的であり、その利益が積み重なることで、結果として会社の規模、すなわちストックが大きくなるということです。

2024/6/19 No.2744

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