商品に手を加えず文脈を変えると売れる
[要旨]
顧客の購買行動は、状況、文脈、環境に影響を受けるので、商品そのものに手を加えなくても、それらを変えることによって売れることがあります。例えば、インスタントコーヒーは、当初、共働きの夫婦を標的にしていましたが、あまり売れなかったことから、初老の夫婦に標的を変えることで、売上が伸びるようになりました。
[本文]
今回も、大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員の鈴木隆さんのご著書、「御社の商品が売れない本当の理由-『実践マーケティング』による解決」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、ブランドは、会社の手を離れ、顧客の頭の中で生成され、記憶されていくことによって価値が高まっていくということについて説明しました。これに続いて、鈴木さんは、顧客の購買行動は、状況、文脈、環境によって影響を受けるため、マーケティングによってそれらをつくることによって、その効果が高まるということをご説明しておられます。
「そもそも、商品サービス中心ではなく、顧客中心で発想するマーケティングは、顧客が商品サービスを買って利用する状況・文脈・環境をつくりだすことにほかなりません。顧客が商品サービスに魅力的な意味、購入する理由を見出せるようにするのです。(中略)古典的な例としては、ネスレが発売したインスタントコーヒーのネスカフェがあります。1950年代に、初めて売り出されたのですが、思うように売上が伸びません。消費者にきいてみると、味と香りが悪いからという答えが多かったのですが、目隠しテストで飲み比べをしても、違いはわかりませんでした。
実は、インスタントコーヒーをいれる主婦は、ものぐさで手抜きをしている怠け者、というイメージが毛嫌いされていたのです。そこで、共働きの夫婦が朝食後にインスタントコーヒーをいれて、さっさとでかける広告から、初老の夫婦がインスタントコーヒーをじっくり味わう広告に変更したところ、売れるようになりました。広告における状況、文脈を変えて、伝わる意味を変えたからです。商品サービスそのものには、一切、手を加えなくても、商品サービスが埋め込まれる状況・文脈・環境を工夫することで、売れるようにすることができるわけです」(246ページ)
冷静に考えれば、消費者は、モノとしての商品ではなく、コトとしての商品、すなわちベネフィットを購入しているわけですから、モノとしての商品ではなく、コトとしての商品を適切な相手に向けて売ろうとしなければ、その商品は売れないということは明らかです。ところが、コトとしての商品が売れる相手は誰なのかということを探ることは、思うほど容易ではないことも事実です。
鈴木さんも別のところで触れていますが、ジャパネットたかたが業績を伸ばした要因は、ベネフィットを提案することに優れていたからです。例えば、ICレコーダーは、一般的には会議の録音の用途が想定されていますが、これを、同社では、ご高齢の方にはメモの代わりになるとして、母親へは子供への伝言を残せるとして提案し、3か月で4万台を販売したそうです。すなわち、商品のベネフィットは、それを製造する会社よりも、より顧客に近い立場にいる専門的な会社の方が見つけやすいということが得います。
したがって、私は、このような、状況、文脈、環境をつくるマーケティング活動は、自社で実施するよりも、外部の専門家に相談することの方が、早く効果を得ることができるようになるのではないかと思っています。もちろん、自社でマーケティングを行うことも可能ですが、他社に、販売手数料を支払って自社商品を販売してもらい、上手な販売方法をしている会社を参考にするという方法もあると思います。
2023/3/23 No.2290