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ビッグデータだけでは正解は分からない

[要旨]

最近は、情報技術が進展し、顧客の属性とPOSデータをひもづけし、従来より詳しいデータを入手できるようになりました。しかし、それだけでは購買に至るまでの行動やその理由までは把握できないので、引き続き、仮説と検証を繰り返し、正しい戦略を早く見つけることが重要であることに変わりはないようです。

[本文]

今回も、大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員の鈴木隆さんのご著書、「御社の商品が売れない本当の理由-『実践マーケティング』による解決」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、学者などの研究したマーケティング理論は、結果が明らかとなっている現在から過去を振り返ることがほとんどですが、実際の事業活動においては、正解は事前には分からない中で決断を繰り返すという前提で臨まなければならないということについて説明しました。さらに、これに関し、鈴木さんは、最近は情報技術が進展しているものの、それでもなお、現場での仮説と検証は実施しなければならないとご説明しておられます。

「情報通信技術(ICT)の飛躍的な発達を背景に、ビッグデータ(高頻度で生成更新される大容量で多様なデジタルデータの集まり)が、マーケティングでも活用されるようになっています。(中略)とはいえ、そもそも、販売(POS)データになっていない内容は、分析の対象外です。過去に売れた結果と売れなかった結果はわかっても、売りそびれた機会損失まではわかりません。店頭では、どのように陳列されていたのか、POP広告を出していたのかなどもわかりません。

顧客とひもづけした販売(ID-POS)データであれば、どのような顧客が購入しているのか、どれくらい繰り返し購入されているのかといった購買行動までは分かりますが、購買に至った行動やその理由はわかりません。Amazonでも、優先的に2日以内で配送する有料会員制の『Amazonプライム』を2005年に導入するにあたっては、購買行動にどのような影響がでるのか、まったく予想することはできませんでした。しかし、いざふたを開けてみると、プライム会員になった人は、買う金額が平均で約2倍になり、大成功でした。

セブン-イレブンでは、日本で最初にPOS(販売時点情報管理)システムを全店舗に本格的に導入する前から、今日に至るまで、店頭での仮説検証型の発注を徹底し続けています。事前に仮説を立てて発注し、販売データで検証することによってこそ、売れた理由を理解することができ、それがまた次の発注につながるからです。(中略)こうした仮説検証の徹底が、他のコンビニエンスストアチェーン店と、平均日販で10万円以上もの大差がつく大きな要因となっています」(182ページ)

鈴木さんは、「顧客とひもづけした販売データであれば、どのような顧客が購入しているのか、どれくらい繰り返し購入されているのかといった購買行動までは分かりますが、購買に至った行動やその理由はわからない」と述べておられますが、最近は、店内に設置したカメラで顧客の行動を分析し、さらに、デジタルサイネージ(電子看板)の表示内容によって顧客の行動がどう変わるかという分析まで行えるようになってきているようです。しかし、鈴木さんのご指摘するような、仮説と検証を繰り返すことが重要なことに変わりはないと思います。

これも鈴木さんがご指摘しておられますが、セブンイレブンが平均日販で他店と差をつけているのは、その仮説と検証にどれくらい注力しているかということも、その通りだと思います。(もちろん、他店も仮説と検証に注力はしていると思いますが…)このように、技術が進歩しても、ライバルもその技術が利用できるわけですから、結局、ライバルとの差を広げる方法は、仮説と検証を繰り返して正しい戦略をどれだけ早く見つけるか、そして、その能力をどれだけ高めるかということに尽きるのだと思います。

2023/3/18 No.2285

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