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M&Aだけでシナジー効果は得られない

[要旨]

M&Aによってシナジー効果を得ることはできるものの、それは、単に、会社を合併するだけでは実現しません。両社の従業員に対して、シナジー効果が得られるよう、動機づけを行なったり、情緒を調整したりするスキルが必要です。このように、事業の改善には、数値面だけでの管理だけでなく、「ひと」の論理に沿ったマネジメントも欠かせません。

[本文]

今回も、前回に引き続き、経営共創基盤CEOの冨山和彦さんのご著書、「IGPI流経営分析のリアル・ノウハウ」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。冨山さんは、M&Aの効果としてシナジー効果があげられることが多いが、このシナジー効果を得ることは、実際には容易ではないと説明しています。「M&Aにおいて、必ず『シナジー効果』という言葉が使われる。大企業が新規事業に乗り出すときも、既存事業との関係で、かくかくしかじかのシナジーがあるかという話が出てくる。いわゆる戦略コンサルタントの人たちも、シナジーという言葉がだいすきだ。

しかし、現実経営の世界で、そのシナジー物語が実現化することは滅多にない。(中略)シナジーの根拠になっている、『範囲の経済』、『規模の経済』は、そう簡単には効いてこない。そこに介在する人間のスキル、動機づけ、情緒といった問題や、一見、共通化できそうで、子細にみていくと、実に多くの調整要素があって、調達コストの方が、共有コスト化のメリットを上回ってしまう問題がある。多くのハードル、障害が、そこには待っている。(中略)

こうした、シナジーは、M&Aや新規事業立ち上げによって、自動的、機械的に生まれるものではない。事業統合する双方、母体企業と被買収側や、新規事業側の両方において、たいへんな経営努力を忍耐強く継続して、初めて実現するものなのだ。しかるべきマネジメント人材と、組織全体にシナジーによる全体最適を志向する強い意志がなければ、ほぼ間違いなく、経営幻想に帰するのが、『シナジー効果』なのである」(125ページ)

冨山さんは、コンサルタントとして、数多くの顧問先のM&Aに関わる中で、M&Aの効果を高めるために、相当の労力をかけてきたようです。というのも、2つ以上の会社が1つの会社になるM&Aは、それぞれ別々の家に住んでいた、2つ以上の家族が、1つの家で暮らすことになるようなものですから、1つになったときには、ある程度の軋轢や摩擦が起きることは想像に難くないでしょう。

そして、その原因は、「かね」の論理でもなく、「もの」の論理でもなく、「ひと」の論理であるので、最も労力がかかり、また、スキルを必要とする課題といえるでしょう。一方で、M&Aなど、経営上の判断は机上で検討されることが多く、それは、主に数字が用いられる、すなわち「かね」の論理が中心的となることから、「ひと」の論理は忘れられがちです。

したがって、事業を改善するためには、きちんとした改善策を講じることも重要ですが、さらに、それを確実に遂行するためには、「ひと」の論理にそって、組織をマネジメントできる能力が重要であり、その能力が経営者やコンサルタントに、強く求められていると、私は考えています。さらに、もうひとつ大切なことは、このマネジメント能力は、一朝一夕では身に付けることはできず、経験を積むことが書かせないということです。そして、この冨山さんのご指摘を読んで、「経営に王道はない」ということを、改めて感じました。

2022/9/24 No.2110

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