VUCAの時代は従業員の自律が不可欠
[要旨]
多くの経営者は、VUCAの時代は、個々の従業員が自律して仕事をしていくことが大切であると認識しているものの、単に、新しい制度を採用しさえすればうまく行くと考えてしまったり、従業員に自律的な活動をさせようとしながら権限委譲が進んでいなかったりなど、そのための働きかけが奏功しない例も少なくありません。そこで、まず、経営者自身が、組織を活性化させるためにスキルを高めることが求められていると言えるでしょう。
[本文]
前カインズ執行役員CHROの西田政之さんの、ダイヤモンドオンラインへの寄稿を読みました。西田さんは、「VUCAの時代の企業成長において欠かせないのが、個々の従業員が『自律』して仕事をしていくこと」であるものの、「多くの大企業経営者がその重要性を認識しながらも、実現できていない」ことについて、次のような分析をしておられます。「言われたことはきちんとやるが、指示待ち、他者依存という『他律』の状態。外発的動機により動くため、やらされ感が蔓延している。
経営や人事が『自律』の旗を振れども、かつての個が会社に従属している世界観が根強く残存している伝統的な日本企業は多い。それでは、この状態を創っている『構造』は何か。まず、会社側の問題がある。発想の起点がWhy(なぜ)ではなく、What(何を)になっている。権威づけされた流行りの制度・施策に興味を示し、模倣や部分最適の施策に飛びつく。それを、設計者側の言葉で落とし込み、安直で簡単な『制度』という名の過剰なルールで個人を縛ろうとする。
一方で、この『他律』の状態を会社側の問題だけで捉えるのは適切ではない。個人と組織の問題にも触れる必要がある。自分の頭で考えずに、『短絡的に答えを探そう』、『答えを当てに行こう』とし、上位者から与えられた仕事に対し『受動的に遂行』する姿勢が染み付いている個人が少なくない。組織においても、上位者に権限を集中させる『集権型組織』の構造を残存させている実態もある」
引用部分の前半部分の、「模倣や部分最適の施策に飛びつく」という事例は、成果主義人事制度がその代表事例でしょう。話が少しそれますが、日本の会社の経営者の多くは、新しい仕組みや経営戦略を採用するということには関心が大きいものの、それだけで事業が改善すると考えてしまったり、または、導入したものの、経営者や従業員の力量が不足して、それらをうまく運用できずに失敗してしまうという事例は少なくありません。
したがって、新しい仕組みを採用するときは、事前に会社の役員、従業員の力量を高めたり、運用後は定期的な検証を行わなければ、それらの仕組みがうまく機能する確率は低くなってしまうということに注意が必要です。そして、引用部分の後半で、従業員の方が「短絡的に答えを探そう」とすることに問題があると、西田さんはご指摘しておられます。これについても、前述でも触れた通り、仕組みを採用すれば成功するという経営者の短絡的な考え方が悪影響していることによるものと思います。
すなわち、「自律的な活動をする従業員を育成する」ことが目的なのに、従業員たちは、経営者が新しい仕組みを採用したことに対して、経営者が直ちに成果が出ることを求めているとソンタクしてしまうからでしょう。これも、西田さんがご指摘しておられるように、自律的な活動をする従業員を育成することが目的なのに、「上位者に権限を集中させる『集権型組織』の構造を残存」させていては、アクセルとブレーキを同時に踏むようなものです。
これらのことから分かる通り、自律的な活動をする従業員を育成する働きかけがうまく行かない原因は、経営者の方たちのスキルが不足することではないかと、私は考えています。これまでの経営者の多くは、自分自身がスキルを発揮して売上が増えれば、それで評価されてきたのですが、これからはよい組織をつくらなければ評価されないのです。でも、現時点では、それを得意とする経営者は、相対的に少ないのではないでしょうか?
2023/8/5 No.2425
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