見出し画像

全体で最適の決定をするのが社長の仕事

[要旨]

相模屋食料では、社長の鳥越さんに権限が集中していますが、これは、全体最適の活動を実施することが目的です。それと同時に、再建している個々の会社には、数値目標を与えないことにしています。なぜなら、数値目標を与えると、社長の指示を建前と認識し、それぞれの会社が部分最適の活動をしてしまうということを避けるためです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、日経ビジネス編集部の山中浩之さんが、相模屋食料の社長の鳥越淳司さんに行った、インタビューの内容が書かれている本、「妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、鳥越さんは、再建を引き受けた会社に対しては、損益責任を持たせず、責任は鳥越さんに集中させているそうですが、その理由は、会社の再建中は、短期的にはなかなか黒字にできないので、損益責任を持たせると妥当な改善活動の妨げることになることからということを説明しました。

これに続いて、鳥越さんは、権限集中は、全体最適を実践することが目的であるということをご説明しておられます。「権限を集中させているのは、ひとえに、全体最適のためだと思っています。言い方を変えると、社内を『つなぐ』ためですね。いろいろな情報が上がってくるけれど、個々の製品や工場や営業の、個別の最適で見ていくのと、全体の最適で見るのとでは、全然違う結論になる。『これとこれでこうつながるから、これはこうやっておいて』というように、リンクをつなげるのが、社長である自分の仕事じゃないかと…。(中略)

どの部署にもいい顔を、ではなく、全体で一番いい形で決定するのが経営者の仕事。でも、それだと、売上や収益にダメージを受ける部署がある。だったら、その責任は負わない仕組みにしておく。責任は社長の私が取る。私からお願いするのは、『全体最適を意識して指示するから、皆さん、それを理解して、対応してね』ということです。(中略)(もし、各部署に数値目標を持たせたとしたら)誰だって、『社長の言うことはタテマエだ』と理解して、全体最適より自分の売上・収益を優先しますよね。だから、全体最適を目指すなら、数字に責任を持たせないのは当たり前なんですよ」(81ページ)

私は、必ずしも、鳥越さんが説明したような体制が最適であるとは限らないと考えています。VUCAの時代は、経営環境の変化に合わせて迅速に対応できるよう、現場に権限を持たせることの方が適している場合もあります。しかし、いわゆる、オーナー会社の場合、鳥越さんのように、オーナー経営者に権限を集中させることが妥当であると、私も考えています。

そして、この、権限を集中させるか、または、分散させるかということについては、どのようにすべきかを、経営者が、適宜、最適な体制を判断しなければならないと、私は考えています。そのためには、ひとつは、経営者の方が、常に、経営環境を注視しながら、どのような体制が適切かを検討していることが大切です。もうひとつは、従業員の方たちに権限を委譲させたときに、適切な意思決定をできるように育成しておくことも大切です。このように、経営者の方は、体制づくりを行う役割があるという、重要な役割があることを、常に念頭においておくことが求められています。

2023/12/3 No.2545

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?