新生銀行の金利1%の定期預金の戦略
[要旨]
新生銀行は、新たに金利1%の預金の取扱を始めましたが、グロービス経営大学院の斎藤教授によれば、これは、同行の預貸率が高い特徴を活かした戦略であると分析しています。これに対し、私は、同行が、実質的なネット銀行であることから、顧客との接点を増やすための呼び水にしていると分析しています。
[本文]
日本経済新聞に、新生銀行が、金利1%の定期預金の取扱を開始したことについて、グロービス経営大学院の斎藤忠久特別教授の分析を載せていました。斎藤教授の説明を要約すると、(1)新生銀行の預金額は約6.4兆円である一方で、融資額は約5.2兆円であり、預金に対する融資額の割合(預貸率)が、81.4%と、ほかの銀行の約60%よりも高いという特徴がある。(2)新生銀行の融資利率は約2.4%である。
(3)今後、新生銀行は1.6兆円の預金を増やす予定であるが、それをすべて1%の預金でまかなったとすると、そのコストは、約160億円である。(4)1.6兆円の80%を融資にあて、それから2.4%の金利が得られるとすると、新たな収入は300億円である。(5)この300億円は、1%の預金のコストの160億円を上回るが、これは、新生銀行の預貸率が高いという特徴を利用したものである、というものです。
本論からそれますが、新生銀行の預貸率の高さは、住宅ローンに注力していることが要因と思われます。同行の2021年度ディスクロージャー誌によれば、2021年3月の同行の融資額約4.8兆円のうち、住宅ローンなどの個人向け融資は約1.8兆円と、融資額の約38%を占めています。話を戻すと、私は、斎藤教授の分析が、必ずしも誤っているとは限らないと思うのですが、新生銀行は、別の観点から1%の定期預金の金利の取扱を行うことにしたのではないかと考えています。
というのは、新生銀行は、実質的にネット銀行になっているからだと思います。新生銀行の店舗は、本支店が23か所、出張所が2か所ありますが、一般の銀行の店舗ではなく、相談業務が主な業務のようです。さらに、従業員数は、銀行本体で2,281人であり、店舗数から勘案して、従業員の多くは店舗以外のところで勤務していると考えられます。
このことは、ネット銀行と同様に、新生銀行は、固定費が少ないというメリットがある一方で、顧客との接点が限定的というデメリットがあるということです。それを補うために、1%の金利の定期預金の取扱を始め、預金増加の呼び水にしようとしているという考え方が自然ではないかと思います。斎藤教授と私の分析のどちらが正しいかは分かりませんが、ある会社の戦略の狙いを考えることは、自社の戦略の設定の参考になると思いますので、ご参考にしていただければと思います。
2022/6/26 No.2020
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