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[要旨]

グロービス経営大学院の荒木博行さんによれば、自社の強みについて、(1)努力してきたこと、(2)他社と比較して販売活動に注力したこと、(3)過去から伝わる社内の言い伝えなど、的外れな回答をする経営者が少なくないようです。これらは、自社目線で、根拠も薄い回答ですが、さらに問題なのは、自社の強みをよく把握できない状態で事業活動を行っている結果、事業活動そのものが適切に行われることと言えます。

[本文]

グロービス経営大学院で、経営学分野の教鞭を執っておられる、荒木博行さんのポッドキャスト番組を聴きました。番組の中で、荒木さんは、「会社経営者の方に、『御社の強みは何ですか?』という問いかけをして返って来た答えについて、『それは本当に強みなの?』と首を傾げることも少なくない」ということを述べておられました。荒木さんがご指摘しておられる回答は、おおよそ3つに分類されるそうです。1つめは、「我が社はこれまでこのような努力をしてきたので、これこれが強みです」と回答するものです。すなわち、強みの根拠は努力をしてきたことというものです。

2つめは、「新商品が出てこないにも関わらず売り上げが伸びた理由は、我々の営業力にある」と回答するものです。これは、荒木さんによれば、他社との比較において、自社の営業力が相対的に高いことが強みであると主張しているということです。そして、荒木さんは、この相対的な違いは経営者の自尊心によって感じているものだということです。3つめは、「我が社はこういう成り立ちで、開発力が強みであるということが代々言い伝えられてきています」と回答するものです。すなわち、「言い伝え」が強みということです。

そして、私も、これらは、第三者から見てあまり根拠がない説明であると、私も感じました。また、私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験の中でも、このようなやりとりは、しばしば行われました。では、なぜ、このような「的外れ」な回答が行われてしまうのかというと、まず、強みそのものがない可能性があるということです。ただ、それは今回は深く掘り下げず、別の原因を考えてみると、そもそも、多くの中小企業では、経営環境(内部環境)の分析をしていなかったり、アセスメントを行っていなかったりするからだと考えることができます。

もし、客観的な根拠があるのであれば、それを示すことで、強みを容易に説明することができます。しかし、環境分析を行っていなければ、努力したこと、自尊心をもっている分野、過去から伝わっている自社の特徴など、会社側からの視点のみでの内容を示すだけに終始してしまうでしょう。本来なら、自社の強みは、自社製品の市場において、その効果があるところまで示す必要があるのですが、それがができないのであれば、「自社の強みは把握できていない」と回答することが正しいと言えます。

とはいえ、実際にそう回答する必要はありませんが、私がもっと危惧すべきと考えていることは、環境分析を行わずに事業運営を行っていることです。または、環境分析を行っていないことを問題と認識していないことです。もし、自社が強みと思っている商品が、実際には、顧客は魅力ある商品と感じていなければ、事業は失敗してしまいます。ですから、現在、自信があるにもかかわらず、商品がなかなか売れないで苦心している経営者の方は、環境分析やアセスメントを行い、間違ったものを市場に送っていないかということを検討することで、課題が解決するかもしれません。

2023/8/21 No.2441

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