『全員野球』は社長が監督に徹すること
[要旨]
経営コンサルタントの板坂裕治郎さんによれば、会社が「全員野球」の事業活動ができるようになるには、社長は「監督」に徹しなければならないそうです。すなわち、目標などのゴールを示し、後は、事業現場から身を引いて、現場の部下に判断や活動を委ねるようにしなければ、組織的な活動ができるようにならないということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの板坂裕治郎さんのご著書、「2000人の崖っぷち経営者を再生させた社長の鬼原則」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、板坂さんによれば、中小企業の経営者の多くは、野球に例えると、エースで4番、すなわち、1人でチームを引っ張るタイプだそうですが、そのような状態では、ある程度は業績は高められるものの、全員野球、すなわち、メンバーのそれぞれの個性を活かして事業活動に臨んでいる会社には勝てず、自社の業績は頭打ちになるということについて説明しました。
これに続いて、板坂さんは、会社が「全員野球」の経営を実現するためには、社長さんが「監督」に徹しなければならないということを述べておられます。「全員野球の経営を実現するためには、社長さんが、さまざまな人材の特徴を理解し、それを認め、適材適所に配置していく必要がある。だが、そうやって全員野球の基盤ができてきて、スタッフの数が10人、20人となって、店や拠点、部署が2つ、3つになってくると、次の問題が生じる。それは、“プチエースで4番”の誕生だ。(中略)
プチエースで4番は、ミニ社長さんでもある。現場で力を発揮し、店や拠点もうまくいく。最初のうちは、『全員野球成功か…』と安心するわけだ。ところが、こいつが徐々に発信力を持ち始め、『社長!現場はこうなんです』と意見するようになってくる。(中略)そこで、社長さんが、『いやいや、まあまあ』と弱気になると、ほかのスタッフはその対応をきちっと見ている。まわりは、『あの人が言い出したら、社長は絶対ノーと言わんけ』と白けムードが広がり、本人は増長していく。
そうやって小さな組織は崩壊していくのだ。(中略)ある飲食店のケースでは、料理長が増長し、店全体が彼の思うままになっていた。社長さんが少しでも何か言おうものなら、『給料が安いけ、ほかから引き抜きもあって』と脅してくる。常連客は味に惹かれていると、社長さんもほかのスタッフも信じ込んでいるから、料理長の給料は、ばーっと上がる。こんなマネジメントでは、遠からず、店はうまくいかなくなる。1人に自分のやり方を伝えるような手法では、全員野球はうまくいかない。
自分のカラーを受け継いだスタッフに店を任せると、一時的に安心感が高まり、以前からのお客さんの受けもよくなるが、長期的に見ると、トラブルの素になる。全員野球のマネジメントを成功させるには、社長さんが監督に徹することだ。勇気のいることだが、現場から一歩退く。各スタッフとの接し方も、評価の基準も、横一線で、現場を完全に委ねてしまうことだ。小さいことにまで口を挟まず、目指すゴール地点のフラグだけを立ててやり、後はじっくりと見守る。これが、中小零細弱小家業の経営者に必要なマネジメントだ」(165ページ)
今回のテーマは、やや難易度が高いことだと、私も考えています。やはり、起業して、ある程度まで事業を軌道に乗せた経営者は、自分のやり方が正しいので、自分のやり方を部下たちに伝えて踏襲してもらおうと考えます。これは、ある程度までは正しいやり方だと思います。しかし、経営者と部下は、人格が異なるので、部下は経営者とまったく同じことをできません。
ある程度までは倣うことはできても、それには限界があります。そこで、経営者の方は、自分の分身を作ろうとするよりも、リーダーとしてのノウハウを経営者から学び取らせ、自分の個性を活かしたリーダーになることを目指してもらうことの方が、大きな成果をえることにつながると思います。そこで、板坂さんは、「社長さんは監督に徹することだ」と述べておられるのだと思います。
そして、もう一つ、社長が監督に徹することについて難しいと感じることは、経営者としては割に合わないと感じることだと思います。事業活動の権限は部下に委ね、部下が自分の判断で事業を行い、その結果、手柄を得たら、それは部下のもの。でも、もし、部下が失敗したら、責任は経営者が負わなければならない。黙って見ているだけなのに、これでは何のために社長になったのかと感じてしまうことでしょう。これについては、私もまったくその通りだと感じます。経営者の方は割に合いません。
でも、ちょっと残念ですが、経営者というものはそういう損な役回りのようです。本当は、花形選手のように活躍して、多くの人から称賛を浴びたいと考えるのが人情なのですが、全員野球、すなわち、組織的な活動ができる組織をつくるには、しばらくは社長は損な役回りに徹することになるようです。これは、理屈では説明できないことなのですが、これを受け入れることができるかどうかが、社長の器量なのではないかと思います。
2024/5/30 No.2724
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