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『腕のよさ』ではなく『技術の高さ』

[要旨]

経営コンサルタントの板坂裕治郎さんは、犬のトリマーの方からご相談を受けたとき、トイプードル専門店とすることをお薦めしたそうです。それは、トイプードルのトリミングは、トリマーの腕が発揮されるからであり、見込み客への訴求効果が高いからだそうです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの板坂裕治郎さんのご著書、「2000人の崖っぷち経営者を再生させた社長の鬼原則」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、板坂さんによれば、業績が悪化した会社の経営者から、業績を挽回するために、他の事業もやってみたいというご相談を受けることが多いということですが、現在の事業で手一杯の状態で、新たな事業に取り組んだとしても、その事業を成功させることは難しいということについて説明しました。

これに続いて、板坂さんは、中小企業は事業を絞り込むことが大切ということについて述べておられます。「以前、犬のトリマーの仕事をしている女性の相談に乗ったときのこと。彼女はトリマーとして胸を張って“プロ”だと言える腕の持ち主で、独立を考えているタイミングだった。開業資金のやりくりも終わり、立地的に納得のいく店も見つかった。オープンに向けて、『どんな店にするんや?』と聞くと、『お客さんに喜んでもらえる店にしたい』と、ぼんやりした答えしか返ってこない。だから、『お前の強みはなんや』と掘り下げた。

すると、『腕です』と、胸を張る。確かに腕はいいのだろうが、正直、腕のいいトリマーはどこにでもいる。お客さんに、『ぜひ、この人に、うちの犬の毛をカットしてもらいたい』と思わせるには、わかりやすい強みが必要だ。そこで、もう一歩踏み込んだ。『でも、お前、フレンチ・ブルドッグや小型犬は、誰がやってもバリカンで短く刈り込むやろ。あれ、わしがやってもできるで』と言ったら、『確かにああいう犬種は誰がやっても一緒です。でも、トイプードルは腕がでるんですよ』と。確かに、トイプードルのへスタイルは多種多様。アフロもいれば、テディベア風もいれば、おさげっぽい仕上がりのもいる。

そこにはトリマーの腕の差がはっきり出るという。『ほいじゃ、お前、もうトイプードル専門店にせえ。トイプードルしかやりません宣言せえ』『いやいや、それはちょっと極端すぎますよ』『そうか?今、世の中の小型犬でいちばん飼われとる犬種は何がおるんや?』『トイプードルです』『じゃあ、いいじゃないか』こんな流れで、彼女の店は電話番号もホームページのアドレスも、“トイプー”の語呂合わせ、看板には『トイプードル専門ドッグサロンSa-na』という屋号を掲げ、今では広島県内で有名な店になっている」(128ページ)

中小企業経営者の方は、事業を絞り込むことに躊躇する方が少なくないようです。その理由は、事業を絞り込むと、見込み客が減ると感じるからででしょう。しかし、現在は、大企業でも顧客の絞り込みを行っています。例えば、コーヒー店では、スターバックスコーヒーはサードプレイスを提供するという考え方で店づりをしています。ドトールコーヒーは、あまり時間のないサラリーマンに、短時間で低価格のおいしいコーヒーを提供しようとしています。タリーズコーヒーは、豆の焙煎をすべて国内で行ったり、コーヒーの抽出は注文を受けてから1杯ずつ行うなど、鮮度に敏感な顧客を標的にしています。

すなわち、現在の顧客は、コーヒーの品質だけでなく、コーヒーを飲む目的も店を選ぶ重要な要素となっているので、事業(=市場・顧客)の絞り込みをする必要があるわけです。しかし、顧客を増やしたいという場合は、ドトールコーヒーがエクセルシールカフェによって、より高級なコーヒーを提供しているように、別のブランドをつくるという対応を行うとよいでしょう。そのような事業展開をするために、まず、自社の中核となる事業を絞り込み、そこから事業展開することが大切だと、私は考えています。

2024/5/27 No.2721

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