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トンボとアリの視点を持つことが大切

[要旨]

冨山和彦さんによれば、ある事業ユニット単位では、最適なマネジメントを行っているように見えても、会社全体から見ると、その事業ユニットがなんらかのボトルネックになっているういうことがあるそうです。すなわち、会社の中の1組織の中にだけいると、部分最適の判断をしてしまいがちなので、中間管理職だけでなく1課員も、会社全体を俯瞰して全体最適の判断ができるようにするための習慣を身に付けることが重要ということです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、冨山和彦さんのご著書、「結果を出すリーダーはみな非情である」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、冨山さんによれば、時間のサンクコストである“サンクタイム”への執着はなかなか捨てきれないものであり、例えば、ある会社が赤字続きのテレビ事業からなかなか撤退できずにいるのは、多くの従業員、経営者にとって、テレビ事業が人生そのものになり、撤退すること自体が考えられなくなってしまうからだということについて説明しました。

これに続いて、冨山さんは、中間管理職は、アリの目とトンボの目をもつことが望ましいということについて述べておられます。「実際に企業経営を行う上で、最も難しい意思決定のひとつに、部分最適と全体最適の見極めがある。ある事業ユニット単位では、最適なマネジメントを行っているように見えても、会社全体から見ると、その事業ユニットがなんらかのボトルネックになっている---そういうことがあり得る。この判断は、非常に難しい。

組織全体のトップからは、ユニットの実態が見えづらいし、ユニットの構成員には組織全体の景色が見えていない。『タイタニック号の中で、パーティの席順にこだわっても仕方がない』というたとえ話があるが、沈みゆく会社で自分の事業部とか課の存続だけを必死で考える人たちがよくいる。課が生き残っていても、会社全体が沈んでしまえば、課も一緒に沈むのだ。そこで必要なのが、大局観である。よく、『鳥の目』と『虫の目』と言われるが、社長は鳥の目で会社を見ており、現場は虫の目で仕事に取り組んでいる。

その両方の視点を持つには、課長クラスが一番よいポジションだ。課長は、会社組織で言えば地を這うアリに近い立場、アリンコ軍団の隊長さんのようなものだが、有事のときはアリンコ軍団だけが生き残っても仕方がない。会社という船が沈めば、アリンコ軍団も海に放り出される。アリの隊長という立場にありながらも、トンボの視点で見渡してみる。その高い視点から、自分のアリチームをどう率いたらよいかを考えなければならない。あるいは、アリの隊長の立場で、組織全体のために何ができるかを考える必要があるわけだ。

トンボの視点を持ったときに、自分が率いている課を存続させることより、消滅させることの方が全体最適につながっているという判断もあり得る。それができるようになるには、若いうちから自分がこの組織全体のトップだったら何をすべきかという視点で考えるクセをつけなければならない。本書で繰り返し述べている、『ミドルリーダー』として、中間『経営者』を担うマインドセットだ。すると、課長になったときに、自然にアリとトンボの両方の視点で組織運営を考えられるようになる」(110ページ)

冨山さんのご指摘のように、経営者だけでなく、従業員も、部分最適ではなく、全体最適の考え方で仕事に臨まなければならないということは、異論はないでしょう。しかし、最近は、部分最適ではなく、「自分最適」の従業員もいるようです。確かに、従業員が会社の犠牲になることはあってはなりませんが、従業員の要望を優先し過ぎると、会社の存続が危うくなり、それは従業員にとっても困ることになるでしょう。したがって、中間管理職だけでなく、従業員も全体最適の視点に立たなければならないということは、改めて説明するまでもありません。

しかし、私が問題と感じていることは、中小企業経営者の多くは、従業員に対して、「全体最適の視点を持って仕事に臨んでください」とは口にするものの、それだけで終わってしまうということです。確かに、全体最適の視点を持つことが大切だという経営者の考えを伝えるところから始めなければならないものの、それだけで従業員が全体最適の視点を持つことができるようになるかというと、現実にはそうはならないでしょう。そこで、私は、中小企業でもバランススコアカード(BSC)を導入し、多角的に事業活動を見ることができる仕組みを取り入れることが望ましいと考えています。

しかし、中小企業は組織の成熟度が十分ではない場合もあり、そのような状態ではいきなりBSCを導入することは難しいので、5S活動や小集団活動を行い、従業員が「マネジメント」について考える機会を持つようにすることが適切だと私は考えています。ただ、こういった「人材開発」は、中小企業では、直接的に利益に結び付かないため、避けたがる傾向にあります。でも、こういった活動に取り組まない限り、会社の組織の成熟度は、いつまでも低いままとなり、競争力も高くなることはないでしょう。

2024/8/2 No.2788

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