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【十の輪をくぐる】を読んで

こんにちは。ロイです。

読書感想文第4弾。

Twitterでいつも仲良くしていただいている方からのご紹介で読んだ本です。

タイトルは『十の輪をくぐる』(辻堂ゆめ・小学館)
バレーボールが繋いだ親子三代の、生々しくもあるけれどどこか切ない、優しい物語です。

スミダスポーツで働く泰介は、認知症を患う80歳の母・万津子を自宅で介護しながら、妻と、バレーボール部でエースとして活躍する高校2年生の娘とともに暮らしている。あるとき、万津子がテレビのオリンピック特集を見て「私は・・・・・・東洋の魔女」「泰介には、秘密」と呟いた。泰介は、九州から東京へ出てきた母の過去を何も知らないことに気づく。
51年前――。紡績工場で女工として働いていた万津子は、19歳で三井鉱山の職員と結婚。夫の暴力と子育ての難しさに悩んでいたが、幼い息子が起こしたある事件をきっかけに、家や近隣での居場所を失う。そんな彼女が、故郷を捨て、上京したのはなぜだったのか。
泰介は万津子の部屋で見つけた新聞記事を頼りに、母の「秘密」を探り始める。それは同時に、泰介が日頃感じている「生きづらさ」にもつながっていて――。
1964年と2020年、東京五輪の時代を生きる親子の姿を三代にわたって描いた感動作!前作『あの日の交換日記』が大好評!!いま最も注目を集める若手作家・辻堂ゆめの新境地となる圧巻の大河小説!!
(「BOOK」データベースより)


今回もいろいろなことを思いながら読み進めましたが、一番最初に思ったことは
「男ってやつは…」
でした笑

本作の主人公ともいえる泰介、そしてその母親である万津子の亡き夫の満は、それはそれは自己中心的。
泰介は後に色々あって良い方向へと進んでいきますが、満のほうはもうどうしようもなく自分勝手。
九州の炭鉱の職員として働いていましたが、鉱員のストライキが原因で仕事がままならない状況になると、昼間からお酒を飲みに町へ繰り出します。
育児には一切参加せず、妻の万津子やその子供である泰介に暴力をふるう毎日。

超個人的な事情でもともと”父親”というものに対してあまり良いイメージを持っておらず、上記のような描写を読んでますます「結婚って幸せなんだろか」と思ってしまいました笑
もちろん今は時代も状況も違いますし、素敵な男性もこの世にはごまんといることでしょう。
ただ残念なことに、私の周りには”素敵な男性”、”素敵な父親”のサンプル数が圧倒的に少ないのです笑
今後の人生でそんな方と出会えたらなぁと淡い期待を抱いてみたりみなかったり…。


話を戻しまして、母親がわりとがっつりバレーボールをやっていた影響で私自身もそこそこバレーボールに関心があったため、「日紡貝塚」や「東洋の魔女」なんかの単語が登場したときは少しテンションが上がりました笑

万津子が「私は…東洋の魔女」とつぶやくシーンがあります。
「東洋の魔女」と呼ばれた日紡貝塚に選手として万津子が所属していた過去はありませんが、逆境にも果敢に立ち向かう「東洋の魔女」たちに感銘を受け、同じく苦しい状況下でも前を向こうとしている自分を選手たちに重ね合わせることで奮い立たせています。
ここの描写は思わず涙が出そうになりました。
というか出ました。
強くあろうとする女性は気高く美しいですね。
少しだけ目に涙を滲ませ、深い決意をその目に宿した凛々しい万津子の横顔が見えた気がします。

本書は、10代~20代の万津子を描いた部分(1950、60年代)と、定年間近の泰介を描いた部分(2019年頃)の大きく二つに分かれています。

集団就職で紡績工場にやってきた万津子とそこで出会った友人たちとのなんでもない日常の様子、辛い仕事の後のバレーボールが万津子にとってどれほど大切なものであったか、その後地元に帰って嫁いでからどれほど苦労して泰介を育て上げたか…。
そしてその泰介もまた、職場での異動により慣れないパソコン作業に振り回され、自分より一回りも二回りも下の年代の同僚たちに冷ややかな目で見られ、プライベートも上手くいかない日々…。

万津子の生活も泰介の生活もこれでもかというほどリアルに描かれており、まるで映像でも見ているのかと錯覚するほど容易に情景を想像することができました。
知らず知らずのうちに物語にどっぷりと入り込んでいき、気づけば私は運命に翻弄される万津子になっていて、新しい環境になじめない泰介になっている。
まるで二人と同じ経験をしたかのように感じ、心を痛め、悩み、迷う自分がいました。
この没入感はすごいですね。
辻堂ゆめさんの入念な下調べと丁寧な表現のなせる業でしょうか。


物語の終盤、泰介は心療内科を受診し、ADHDだと診断されます。
自己中心的で短気にみえた泰介ですが、ここで始めてその理由、というか原因が判明しました。

私が一番感動したのは、泰介が素直に心療内科を受診しようと決意したことです。
最愛の娘である萌子から勧められたということが大きく影響しているんだと思うのですが、それでもすんなり受け入れるのは難しいことでしょう。
その疑いがありつつもなかなかもう一歩踏み出せない人が多い中で、泰介は強いなと思います。

また、「なぜ自分はこうなんだ」ともやもやしていた自分に”ADHD”という名前が与えられたことは、ある意味泰介にとって救いだったように思います。

昔から短気で、思ったことはすぐ口に出してしまい、喧嘩っ早かった泰介。
”個性”で済んでいたうちはよかったけれど、この”個性”のせいで徐々に周囲との間に軋轢が生じ、自身も周りもさぞ苦しんだことでしょう。
思い通りにならない日々に歯がゆさを感じ続け、それでもどうすることもできなかった泰介でしたが、”ADHD”という名前が付けられたことで少し心が軽くなり、また原因が分かったことで少しずつ対処できるようになりました。

前々からうっすら思っていたことではありますが、やっぱり「名前を付ける」っていうのは重要なことだなぁと改めて思いました。
ある物に名前が付くことでそれとそれ以外の物との間に区切りができ、判別が容易になります。
その”物”は、人だったり動物だったり天候だったり様々。
今回は”病気”ですね。
名付けられることでその“物”の正体を知ることができ、それに対して自分がどのように反応すべきか検討することができる。

苦労することもたくさんあるかもしれませんが、泰介の未来が明るいものであることを願わずにはいられません。


本作を読んで、久しぶりにバレーボールをやってみたくなりました。
といっても本格的にプレイした経験はないのでなんちゃってバレーボールしかできませんが笑
万津子のように、逆境にも負けず、自分の大切なモノを守り抜ける強さを持った女性になりたいなと思いました。

「私は…東洋の魔女」なのだから。


最後まで読んでいただきありがとうございました。
また別の記事でお会いしましょう😊

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