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『鬱の本』書評(「SDGs通信」とちぎボランティアネットワーク)

とちぎボランティアネットワーク機関誌「SDGS通信・市民文庫」書評を書きました(発売日前公開)

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『鬱の本』点滅社 

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784991271939

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『鬱の本』 屋良朝谷ほか編  点滅社  定価1800円+税

評者 白崎一裕(那須里山舎)

この本は、わたしと同じ、「ひとり出版社」を営む、お仲間出版社の点滅社さんが出版している(正確には、点滅社さんはふたり出版社)。

 さらっと読んで、ものすごく嫉妬した。こんな本をうちでも出したい!心の底から思わせてくれる宝箱のような本である。

 編集部の書いた「はじめに」にこうある。ちょっと長くなるが、どうしてもみなさんに紹介したいので引用する。

 「この本は、「毎日を憂鬱に生きている人に寄り添いたい」という気持ちからつくりました。どこからめくってもよくて、一遍が1000文字程度、さらにテーマが「鬱」ならば、読んでいる数分の間だけでも、ほんのちょっと心が落ち着く本になるのではないかと思いました。

 病気の「うつ」に限らず、日常にある憂鬱、思春期の頃の鬱屈など、様々な「鬱」のかたちを84名の方に取り上げてもらっています。

 「鬱」と「本」をくっつけたのは、本の力を信じているからです。一冊の本として『鬱の本』を楽しんでいただくとともに、無数にある「鬱の本」を知るきっかけになれば、生きることが少し楽になるかもしれないという思いがあります。」

 ここに書いてあることがそのまま「この本のこと」である。

わたしはここ3年ぐらいの間に、仕事と収入と連れ合いを失い、うつ病ではないが、ずっと「鬱」である。表面的には、そうみえないかもしれないが、まぎれもなく「鬱」だ。そんなわたしが、この本をぱらぱらとめくるとき、ほんとうに「ほんのちょっと心が落ち着く」。

 加えて、「本の力を信じる」とある。ここでも圧倒的に心がふるわされていく。街の本屋さんがなくなる、出版不況、本はオワコンなんていう腐るほど流通している報道が、すでに日常になっている。そんなとき、無謀にも出版をはじめている自分も、やはり「本の力を信じている」、それって何だろう。

 よく本を読むことで何か新しいことが分かる、とかいう効用が言われる。しかし、分かるというレベルには、いろんなものがあって「情報」「知識」「知恵」というように「分かる」ということも分類されるのかもしれない。わたしは、ここに「魂」という言葉をつけくわえたい。本の力というのは、魂で分かるということなんだろうと思っている。もちろん、すべての本がそうではないのかもしれない。しかし、この世に残っていく本のなかに、そんな魂で分かる世界を宿している本があると思う。それは、電子本よりは、紙の質感を持って手にとってみて、紙のページをめくってみて、そこから魂が自分にかえってくるものでないかと、そう「信じている」。

実は、その魂を宿す力は、「編集」という行為の力だとも思う。この本におさめられている84編の文章は、ネットの世界にそのままばらまかれていてもおかしくないかもしれない。しかし、編集者が、自分の魂のもとに、これら84の言葉たちをあつめ、一冊の本にしたとき、そこに84を超えた魂の力が宿る。そして、その魂が読者の魂をゆさぶる。

 最後にまた書く。そんな編集をされた屋良さんたちにかぎりなく嫉妬する。

 そんな『鬱の本』で、ある。

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