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月45時間程度の恒常的残業にリスク|迷想日誌

労働新聞7月13日号3面で報道しましたアクサ生命保険事件は、インパクトがあります。

過労死ラインにまったく達しない残業時間でも使用者側の安全配慮義務違反が認定されてしまいました。もちろん何らの疾病も発症していません。

従来の多くのパターンでは、過労死ライン程度以上の長時間残業を長期間行わせ、その結果、脳・心臓疾患や自殺を含む精神障害が発生し、それに対する損害賠償が認定されるという流れでした。
場合によっては、かなり高額の損害賠償額が認められていました。

しかし、最近では、具体的に疾病が発症していなくても、長時間残業を一定期間行わせていたこと自体の責任を問う裁判例が出てきました。
その一つが、今回のアクサ生命保険事件です。

過去には、把握している限りですが、同様の裁判例が2件あります。
昨年9月の長崎地裁による狩野ジャパン事件判決では、2年間にわたり月90~160時間の残業を行わせたこと自体を不法行為と認定して、30万円の支払いを命じています。もちろん、具体的疾病は発症していません。

平成28年の東京地裁も同様な判決を下しています。
1年余りにわたって月80時間程度以上の残業を行わせたいてことに対して、労働者に心身の不調を来す危険性があったとして慰謝料支払いを命じました。

昨年10月の狩野ジャパン判決後に、今後、同様な判決が増えてくるのではないかと考えていた中でのアクサ生命事件判決でした。
しかも、残業時間の長さからいえば、過労死ラインには程遠いレベルといえます。
月残業時間は30~50時間程度に留まっていました。

月の法定時間外労働(一般労働者、最長の者)が45時間超の事業場の割合は、大企業で20%、中小企業で10%あります。
実態として、この程度の残業時間を長期間行わせている企業は決して少なくありません。
労働者に特別疾病が発症するとは思われませんので、まさか提訴されるとは考えてもいないでしょう。

しかし、今後は「発症の恐れ」を安全配慮義務違反などとされる可能性が高まっています。
過労死ラインとは程遠いと考えていると、退職した労働者から危険な長時間残業を行わせたとして提訴されるリスクが拡大しているのではないでしょうか。

労働新聞編集長 箱田 尊文

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