見出し画像

バートランド・ラッセルという哲学者を知ったのはやはり30代半ばだったと思う。たまたま出張先で入った古書店でふと手に取ったのが「幸福論」だった。元々は高名な数学者で、ノーベル文学賞の受賞者ということくらいしか予備知識は無かった。

今回新たに知ったのは、ラッセルは行動する哲学者で社会運動に没入した時期もあり、戦中戦後に何度か投獄も経験しているということだ。晩年にフランスの哲学者サルトルと共に核反対の平和イベントを開催したり、自らの理念を行動に移したホンモノの哲学者である。
文章の方は元数学者だけあり、論理的で明晰なのだが、ラッセル独自の考え方がしっかりと展開されているので非常に興味深く読んだ記憶がある。本書は2部構成となっており、前段で不幸の原因分析を行い、後半で幸福になる為の諸条件を示唆するというアプローチになっている。序章で、本書にある内容はラッセルによって検証された結果であり、不幸に苦しむ人々の処方箋とされ幸福になってくれたらと記されている。改めて読み直してみたが、後段の4つ目のポイントの仕事と幸福に関する考察がとても面白く、強く共感を覚えたのでそこに絞って書いてみる。

ラッセルは、当然ながら仕事を幸福の為の大きな要素と考えている。そこでは、まず自分の人生を一つの全体として統合的に捉え、その人生の目的を大きな意味で方向づけし、その流れの中に仕事を位置づけることができれば、人生のベクトルと仕事のベクトルが一致する。ラッセルは人生と仕事の首尾一貫した目的は、幸福な人生の為の必須条件だという。

 

多くの人々が、仕事は糧を得るための手段と割り切る、もしくはより多くの糧を手にするために自分の望む人生ベクトルやミッションとは無関係な仕事に従事する。そのギャップに苦しんで精神や身体を崩してしまうのではなかろうか。はたまた人生の終盤局面で後悔することになるのではなかろうか。もちろん仕事が人生の全てではないが、少なくとも社会に出てからは有限な人生の最も多くの時間を仕事に費やす。ラッセルはトータルバランスの重要性も繰り返し説いているが、仕事は幸福を左右する一大要因と考えているのだ。

 

ラッセルのこの考えには基本賛同する。自分の経験からもそう思う。いくつかの仕事や職場を経験してきたが、収入は低くともやりたい仕事、それも人生ゴールやミッションに紐付いたものは楽しくやれたし、いくら高収入でも本質的に人生ベクトルと方向性の異なるものは奥底からの幸福感を感じることは出来なかったから。

 

社会起業大学では、その人生ベクトルと仕事ベクトルを一致させた上で社会貢献してゆく生き方を目標としている。もしラッセルがまだ生きていたら、講演のお願いをしていたことだろう。今ならZOOMだけど。笑

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?