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今週もソーシャルな映画についてのお話を。しかも次回と2回に分けて。昨夏、神保町の岩波ホールで「ニューヨーク公共図書館」という映画が上映された。とても地味なタイトル、テーマで多分ガラ空きだろうなと踏んで行ってみたところ、2度も満杯で入れず3度目の正直でやっと観ることが出来た。岩波ホールは岩波文庫で育った知的なシニア層が上顧客の意識高い系映画館であることは間違いない。しかしこれほど人気を博すとは、、、 その理由は未だにわからないが、実に大きな学びを得ることができた。この映画でも、図書館運営が「地域性(地域らしさ)×社会課題(ニーズ)×ビジネス」という図式で捉えることができると気づいたからだ。

 
映画は3時間にも及ぶドキュメンタリーの巨匠と呼ばれるフレデリック・ワイズマン89歳による41作目の作品だ。図書館という早晩過去の遺物になりかねない公共施設が社会で果たすことのできる役割、可能性を紹介し、ひいては社会、民主主義の意味についての再考を促すというような内容だった。同図書館は125年の歴史を誇り世界の1、2を争うスケール(規模、蔵書数)で、市内に88の分館を持つ。自身は何度も本館の前は通ったことはあるが、入ったことは無かった。本作ではカメラが舞台裏までしっかり踏み込み、この図書館の全体像を解明してくれる。図書館が地域社会と密接につながり、多様な市民が運営に関わり、多くの社会課題の解決にも向き合っていることに日本の図書館との違いを見せつけられた。また裏方においては経営、運営に多彩な知見を持つプロフェッショナルがボランティアで関与しており、民主主義のあり方にも気付きをもらえた。

 
鑑賞してから1年経つので記憶は完全ではないが、この図書館の機能として以下のようなものがある。蔵書の市民への提供、芸術・文学・科学・歴史等の各界第一人者を招いての公開講座、ネット難民へのデジタル環境の提供、貧困階層の人々への就活支援、シニアの為のダンス教室、子供の読み聞かせ教室、有名アーティスト(それもPUNKミュージシャン!)によるライブや講演、大人の英語教室などなど実に多彩。分館へは権限委譲されており、それぞれの地域特性を生かしたプログラムが作られる。それは文化面においてだけでなく社会課題に直結するものも含まれる。例えば、黒人やヒスパニックからなる貧困地区であるハーレムでは黒人文化に関する勉強会もあるが、就職支援プログラムも用意されているというように。

 
日本の図書館とは随分異なる。しかし図書館という存在を「地域におけるハブ(中心)」という視点で捉え直すと、色々なニーズの実現や社会課題の解決をできる可能性を秘めていることに気付かされる。やはり大切なのは複眼思考だ。頭を柔らかくして違う角度から物事を捉えなおせば、新たな市場が見えてきて新しい製品やサービスを生み出すことが出来る。

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