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中小企業で活かせるデザイン思考

【当記事は栃木県企業内診断士研究会 2021年10月16日(土)開催の”ティフ研トーク第14回”テーマのスピーチ資料として使用予定です。】

 デザイン思考は、GoogleやAppleといった世の中にイノベーションを起こす企業やベンチャー企業がアイデア創出のために用いる思考法です。スタンフォード大学のd.school(デザインスクール)で提唱され、現在ではコンサルティング会社やベンチャー企業にとどまらず、多くの企業で取り入れられています。

 「ウチは古い中小企業だから関係ない」と思われる経営者の方もいるかもしれませんが、実は中小企業だからこそ、デザイン思考を活用して事業を改善・革新できる可能性があります。

 例えば、特許庁は近年デザイン思考を経営に活用する「デザイン経営」に積極的に取り組んでいて、「中小企業のためのデザイン経営ハンドブック」を作成し、中小企業でデザイン経営に取り組むための入り口や、事例紹介が行われています。

自己紹介                                     

 申し遅れましたが、筆者は過去にシリコンバレーに滞在し、デザイン思考を学びました。近年ではアイデアを創出するだけではなく、それを事業に活かしたいという想いから中小企業診断士の試験に合格し、現在は実務補習に取り組んでます。
(実務補習とは診断士として登録するために、実際に中小企業を診断して経営等に関する提言を行う取り組みです。) 

 ここでは、まずデザイン思考とはどういったものなのかを簡単にご紹介し、なぜ中小企業で活かせるのか、どのように活用できるのか、筆者の考えをご紹介させていただきます。デザイン思考自体の詳細なフレーワークについては別の機会でご紹介できればと思います。

デザイン思考とは

 デザイン思考と聞くと「デザイナーの考え方でしょ?」と思われるかもしれませんが、本来のニュアンスから少し外れているかもしません。
 日本では「デザイン=模様・図案」と捉えられやすいですが、本来は「Design=設計」という意味が含まれています。

 つまり、デザイン思考とは、「アイデアを設計するための思考」という表現が本来の意味に近いと考えます。
 そして、多くの企業ではそれをフレームワークという形で取り入れ、アイデアを創出するための手段として活用しています。

 まず、デザイン思考でアイデアを創出するにあたり、根幹となる考え方をご説明します。デザイン思考の権威であるIDEO社がIDEO.org, HCD toolkitというコンテンツでデザイン思考の考え方やツールについて紹介しています。その中で「3つのレンズ」として紹介されていますので、一般的な説明はそちらをご参照ください。

https://designthinking.eireneuniversity.org/swfu/d/ideo_toolkit_ja.pdf

 ここでは、筆者の経験を踏まえた解釈をご紹介します。         デザイン思考においては、創出するアイデアを「ユーザー視点」・「技術視点」・「ビジネス視点」という3つの「視点」で捉える必要があります。ユーザー視点とは、「ユーザーにとって価値があるか」をユーザーの目線で考えることを意味します。技術視点とは、「技術的に成立するか」を技術者の視点で考えることを意味します。ビジネス視点とは、「ビジネスとして成立するか」を経営的視点で考えることを意味します。

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 上図のとおり、3つの視点で考えたときに、いずれも満たすアイデアが「イノベーションに値するアイデア」であり、デザイン思考を通じて創出したいゴールになります。 
 ここで重要なのが、デザイン思考においては、まずユーザー視点を起点としてアイデアを創出することです。たまに、「デザイン思考を使うと突飛なアイデアは出るんだけど、実現性がなくて採用されないんだよね。。。」と聞くことがありますが、それはもしかしたら、「技術視点」・「ビジネス視点」が欠けている恐れがあります。

 例えば、Apple社が生み出し、イノベーションを起こした「iPhone」は、世の中になかった「技術」を生み出したわけではなく、世の中にある技術をうまく結合して、世の中になかった「ユーザー価値」を生み出したと言われています。また、「iTunes」では、iPodやiPhoneでしか音楽を再生できないといった買い替えの障壁を設けることで、継続的な収益を得るといったビジネスモデルが優れていると言えます。
 このように、 「ユーザー視点」・「技術視点」・「ビジネス視点」がバランスよく統合されたアイデアがイノベーションであり、事業を成功させる秘訣と言えそうです。

中小企業でデザイン思考は活かせるか

 実は、デザイン思考は大企業よりも中小企業の方が活かしやすいのではと考えます。
 例えば大企業のとある事業部の社員がデザイン思考を取り入れ、新事業を考案したとします。しかし、大企業では組織の階層が深く、新事業に取り組むに当たって承認フェーズが多数あり、その都度ロジカルな説明が求められるため、スピーディな実行が難しいです。また、既存の枠組みから外れる判断が求められると事業部内の決済ではGOできないことがあったり、そもそも予算を取っていないため、実行フェーズに移せなかったりということが多々考えられます。
 反対に、大企業の社長が「デザイン思考を採用して新事業を創出せよ!」と大号令を出したとしても、デザイン思考はあくまでも手段の一つであるため、明確なビジョンが社員に浸透せず、現場で本気で事業化させるモチベーションにつながらないおそれがあります。

 一方、ベンチャーにも共通する点かもしれませんが、中小企業は大企業と比較して承認フェーズが少ない、社長から社員への意思共有を図りやすく、一丸となってデザイン思考を活用していくことができる可能性があります。
 ただし、昔ながらの家族的経営で、社長の意見は絶対!現場から意見を言うなんて以ての外!という企業の場合には、組織風土を見直すところから取り組んでいく必要があると考えます。デザイン思考では、多角的な視点でアイデア創出を行うため、相手の意見を否定せず、お互いにフラットな視点でチームとして取り組むことが求められるためです。

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デザイン思考の活用パターン

 筆者の経験上、デザイン思考が求められるのは「〇〇の分野で新事業を検討したい」というパターンが多いです。しかし、既存事業を継続していくことで手一杯で新事業に回すリソースがない中小企業は多数あります。では、そんな中小企業はデザイン思考を活用できないのでしょうか?

 筆者は、既存事業においても、よりユーザー価値に即したものに改善・改革していくためにデザイン思考を活用することはできると考えます。
 繰り返しになりますが、デザイン思考は「ユーザー視点」でアイデアを創出していきます。つまり、既存事業をユーザー視点で視たときに、現状の商品・サービスで顧客から満足してもらえているのか、顧客が不満に思っていることはないか、を改めて考える機会になります。
 また、「ユーザー視点」と記載しましたが、社員や自社サービスに携わる人を対象とすることで、より効率的な作業方法に改善していくこともできます。
 つまり、デザイン思考を活用することで、これまで当たり前と思っていた慣習・やり方にとらわれずに既存事業を革新し、顧客満足度を高めて売上向上に貢献できる可能性があります。

 例えば、ユーザーのニーズや不満を考察するためのフレームワークとして、「カスタマージャーニー」を使うことができます。

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中小企業で取り組むデザイン思考の留意点

 個人的な印象ですが、デザイン思考の多くのフレームワークは「ユーザー視点」によるアイデア創出の色合いが強く、「技術視点」・「ビジネス視点」が少し弱いと感じています。
 例えば、デザイン思考のフレームワークの中に技術成立性を検証する「ペーパープロトタイピング」やビジネス成立性を検証する「ビジネスモデルキャンバス」などがありますが、そのフレームワークだけでは経営者がGOサインを出せるレベルで検証することは難しいと思います。

 「技術視点」は、アジャイル開発により市場でPDCAを高回転させることで解決される可能性があります。「ビジネス視点」においても同様に、商品やサービスをローンチしたうえで失敗したらピボット(方向転換)する、というのがシリコンバレーのベンチャー企業等ではよく用いる手法と考えられますが、あまり日本の中小企業にはそぐわない方法かもしれません。
 というのも、市場で何度も失敗し挑戦を繰り返すためには、当然ながら資金が必要です。多くのベンチャー企業ではVC(ベンチャーキャピタル)という投資家から資金調達をしていますが、日本の多くの中小企業は銀行からの融資が中心で、あまり馴染みがなく、取り組みも容易ではありません。

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 よって、中小企業でデザイン思考に取り組む際には、市場で何度も失敗しながら成功するまで挑戦する、というスタイルではなく、事前の「ビジネス視点」での検証確度を高めて挑戦する、というやり方も考えられます。 (ただし、迅速に市場に投入することのメリットも考慮が必要)
 そのための手段の一つとして、財務会計知識や経営戦略理論のに長けた中小企業診断士に相談してみることをおススメします。
 また、診断士の方は、デザイン思考を取り入れたアイデア創出のフェーズから支援することも有効かもしれません。

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最後に

 今回は、デザイン思考を中小企業で活用できるのか、という観点で記載させていただきました。実際にデザイン思考を活用していくためには、チームビルディングやフレームワークの活用、ファシリテーションスキルなどが必要となります。
 これらについては、またの機会にご説明できれば幸いです。
 長文にもかかわらず最後までご覧いただきありがとうございました!




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