朱理

テーマとかない計算、雑算の記録

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最近の記事

リングワールドの力学

読んだことないけど、1970年発表のリングワールドというSF小説があるそうで、恒星を中心に建設されたリング状の巨大構造物が舞台らしい。リングの半径は、地球の公転軌道半径並にバカでかく、ゆっくりと回転することで、内部には、遠心力による疑似重力があるという設定らしい Dyson sphereと命名規則を合わせるなら、Niven ringになるのかもしれない。また、Dyson sphereは、スタートレックでは、"ダイソンの天球"と訳されてたので、それに合わせるなら、"ニヴンの天

    • 点双極子の数学

      電磁気学の教科書には、(原点にある)点電気双極子、点磁気双極子が、位置$${\mathbf{r}}$$に作る電場と磁場として、以下のような式が書かれている。 $${\mathbf{ә}}$$,$${\mathbf{ш}}$$は電気双極子モーメントと磁気双極子モーメントで、$${\hat{r}}$$を$${\mathbf{r}}$$方向の単位ベクトルとして、 $${ \varepsilon_{0} \mathbf{E} = \dfrac{3 (\mathbf{ә} \cdo

      • マクスウェル方程式をどう覚えてるか

        数学や物理は暗記じゃないとは、よく主張されるけど、時間制限のあるテストや仕事で使うのに、ある程度は暗記が必要だし、何も覚えてなくていいわけはない 三角関数に関する諸々の関係式を毎回定義に戻って計算してたのでは、効率が悪くて仕方ない。それに究極的には、定義は覚えるしかない。$${\sin}$$と$${\cos}$$は、どっちがどっちというのは考えて分かるものではない かといって、全てを丸暗記してなくても、他の関連事項から素早く導けるなら、それで十分ではある。思い出す時の筋道

        • 波動関数の"確率流"を計算してみる

          確率流と電流磁性の量子論(第3版)第一章の章末問題の一問目に次のように書いてある。 $${e,m,\hbar}$$は単位電荷、質量、プランク定数。で、水素原子の波動関数に対して、電流密度から磁気モーメントを計算しろというのが問題。 どうってことのない問題だが、$${\mathbf{j}}$$は確率流に電荷を掛けた量で、これを電流密度と解釈するなら、$${e \psi^{*}\psi}$$を電荷密度と解釈しないといけない。 現在の大抵の量子力学の教科書では、$${

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          ドップラー効果を波動方程式から出す

          昔からドップラー効果の説明が苦手だった。音源や観測者が動くとして波の数を数えるたいな説明を聞いた気がするけど胡散臭いと思ったし、観測者が動く場合と音源が動く場合で結果が同一でないのも不思議だった。 人類の数学力は平均的に低すぎるので、初等的な算数で済ますしかない面はあるのだろうが、数学的難しさに負けて精密な計算を放棄するのはよくないと思う。検算として直感的な説明を利用するのは悪くないと思うけど。 数式を使わずに何かを説明したという本は溢れてるのに、逆がないのは悲しい。

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          輻射輸送を考慮した空の色の試算

          空の色を計算する試みの続き。内容的には、ほぼ独立している。 前回の計算では、輻射の方向性など全く考慮してない雑な計算だった。しかし、レイリーの時代の計算は、あれより極端に高度ということもなかっただろうと思う。 太陽輻射には明らかに方向性があり、レイリー散乱にも異方性があるので、方向も込みで、真面目に散乱を考慮したら、どうなるかという計算。具体的には、輻射輸送方程式を解いて空の色を計算できるか検討していく。 輻射強度は、位置$${\mathbf{r}}$$、方向$$

          輻射輸送を考慮した空の色の試算

          空の色を計算する試み

          今日の空は、雲ひとつない快晴だったので、帰ったら、空の色を計算しようと思った。 空が青いのは、レイリー散乱のせいというのは、常識みたいに語られている。そう言われても、何も分かった気がしないし、「エライ人が言うならそういうもんか」という以上の感想しかない。 レイリー散乱で散乱された光が目に入っているのだという説明が正しいんだとしたら、レイリー散乱で消散した分の放射照度を色に変換してやれば、空の色になるはずじゃないだろうか。 黒体輻射の色まずは、大気圏外の太陽光のスペクトル

          空の色を計算する試み

          流体音波の吸収係数

          ランダウ・リフシッツの"流体力学"に、流体を伝わる(微小振幅)音波の吸収による損失を議論している項目がある(英訳第二版だと、§79)。ビームのように、音波が広がっていかない場合でも、吸収による減衰は避けられない。 音波の吸収要因として、粘性と熱伝導の寄与が計算されているが、具体的な物質での数値が書いてない。数値を載せてくれる親切さがあってもいいと思うのだけど、粘性と熱伝導のどちらの影響が大きいのか、一見では分からない。 粘性は運動量拡散の効果であり、熱伝導はエネルギー拡散

          流体音波の吸収係数

          平地と文明

          文明の定義は曖昧さがあるけど、多分、ある程度以上の規模になると、人間は平地に集まったのでないかと思う。 一定以上の人数を扶養するには農業は避けられないし、農業をする上では、起伏の激しい土地より平地の方が好まれるだろうというのは予想が付く。陸路で移動するにしたって、山道を通るよりは、平坦な経路を通りたいのが人情だろう。馬だって、山道を通るには向いてないと思われる。 そんなことを思って、世界の平地マップみたいなデータを探したところ、An assessment of the r

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          ヒト同士のゲノムはどれくらい違うのか

          ヒトとチンパンジーのゲノム配列は、98%以上似てるという言説はよく見る。人間同士でも個人差があるけど、定量的にどの程度ゲノム配列に差があるか自分で確認しようという試み。 核染色体の比較2018年時点で、チンパンジーリファレンスゲノムは、28億bpほどあり、5000個近い場所の定まってないscaffold(長さにして2億bpほど)がある。余ったscaffoldを無視して、ヒトゲノムと比較すると、大体、全塩基の1~2%くらいで一塩基置換が検出できる。ヒトとチンパンジーのゲノムが

          ヒト同士のゲノムはどれくらい違うのか

          中世中国の三角関数計算法:『弧矢算術』(前半)の仮訳

          明代の算術書『弧矢算術』の前半部を日本語訳した。後半は、数値例を示した問題集なので略。 (私の能力不足で)意味が取れない部分や原文がおかしいと思う部分もあるが、大意は合ってるだろう。 原文と訳を併記した。原文には、句読点や文の切れ目が殆どないが、勝手にスペースを挿入している。 『弧矢算術』の背景三角関数は、最初、円弧の径と孤長から弦長を計算する目的で作られた。このように問題を定式化すると角度の概念は必要ない。 この問題を明示的に解決した文献は、(考古学文献も含めて)現

          中世中国の三角関数計算法:『弧矢算術』(前半)の仮訳

          円周率の実用近似値の歴史

          円周率の近似値を高精度で計算してきた人のことは、調べれば色々出てくる。けど、円周率を使う計算をする時、その時代に知られていた最も精密な値が常に使われてきたわけではない。 現代日本の学校では、3.14という値を習うけど、実際に円周率が使用される場面では、殆どコンピュータを使うだろう。今は、特に理由がなければ、倍精度浮動小数点数を使うから、$${ \dfrac{884279719003555}{2^{48}} }$$が最もよく使われている近似値になると思う。コンピュータが普及す

          円周率の実用近似値の歴史

          創作世界の魔術と西洋魔術の原像

          漫画、ゲーム、ラノベ、アニメなどで出てくる西洋風ファンタジー世界には、よく魔術が出てくる。現実にも魔術師を名乗る人はいたけど、残念ながら、現実では、ビームも撃てず、バリアも張れない。創作世界の陰陽師や忍者と実在した陰陽師や忍者が全然違うのと同じく、魔術師も、現実と創作世界では違う。 日本の国家陰陽師も、迷信的儀式以外に、天文、暦、時計の管理など、現代基準で有意義な仕事もあった。現実のヨーロッパで魔術と魔術師はどういう存在だったのか。 西洋魔術の定義現在の魔術という単語は、

          創作世界の魔術と西洋魔術の原像

          三角関数を使った三平方の定理の証明

          このニュースを見て、検索したら、redditで、2009年のOn the Possibility of Trigonometric Proofs of the Pythagorean Theoremという論文が紹介されていた。 内容は、$${\cos(x)^2 + \sin(x)^2 = 1}$$を三平方の定理を使わずに証明するという話。簡単に議論をまとめると、以下の通り。 (1)最初に、$${\cos(x),\sin(x)}$$を普通に定義する。特に変わったことは

          三角関数を使った三平方の定理の証明

          仮想数学史:会円術の先にあったかもしれない数学

          北宋末期の人である沈括(1031〜1095)が会円の術と呼んでいる近似計算法がある。ここの"会"は、集める、集まるの意味で、直訳すれば"円を集める術"ということになるが、意味不明だろう。 これは、任意の角度で切り取られた円弧の弧長を"矢"の長さから計算する方法を与える。円弧の角度を$${\theta}$$、半径を$${R}$$とした時、矢の長さとは$${R(1-\cos \dfrac{\theta}{2})}$$のことで、弧の長さは当然$${R \theta}$$であるから

          仮想数学史:会円術の先にあったかもしれない数学

          月が主役の天文学史(A lunacentrism on the history of astronomy)

          天文学の歴史を述べる時、主役は一般的に太陽なので、月を主役にした叙述の試み 月と潮汐論星々が地球や人間に何らかの影響を与えるという発想は割と普遍的らしく、伝え聞くところでは、文字を持たない民族も、流星を何らかの予兆と考えることはあったそうだ。 地球から見える星の中で、太陽と月は見かけ上最も大きく目立つだけでなく、比較的容易に観測できる影響がある。太陽が、熱と光の源で、影の長さと気温の変化が相関していることは、有史より遥か以前から直感されてただろう。 都会に住む現代人にと

          月が主役の天文学史(A lunacentrism on the history of astronomy)