見出し画像

スターティング・スモール

「お前は口だけだな」

プルタブに指をかけたとき、ふと先ほど聞いた言葉が脳裏を駆け抜けた。それはまるで「大して働いてもないのに飲むんじゃない」と戒められているようで、何だか少しだけ癪だった。
自分がやりたいことは割とすぐに思い浮かぶタイプの人間だと自覚している。休日は満喫するのに忙しいし、試してみたいことも挑戦したいことも尽きない。だから、1つを成功させるために10以上の方法と創意工夫を提案する、それが意欲の源でありモチベーションにもなっていた。けれども所詮、これらはくだらない。アイディアを箇条書きで列挙すれば使い捨てのメモ1枚に収まるただの机上の空論にすぎないのだ。考えるより先に手を動かせといつも思っているのに、考えることは止められない、それはまるで質の悪い中毒症状のようだと自嘲する。
そんな思考ジャンキーであるが、その最も厄介な点はアイディアを出すだけ出して中々取り掛からないというところだ。冒頭の言葉はそんな私の欠点を指したものであり、自分でも納得している。その時は何となくで聞き流していたが、いざ一息つこうとした時にふと思い返してしまう程度にはあの言葉が心に刺さったのだろう。怒られて落ち込むほど、繊細な人間ではないが悶々と指摘を噛みしめている程には自覚があった。歯の隙間に何かが挟まった程度の不快感、なんてことはない。
まずは確実に実現できる所から始めて、徐々に要素を付けたしていけばいい。最初が肝心とはまさしくその通りのだと思う、もしもスタートの時点でエラーが出てしまえば壮大な計画が台無しになってしまうのだから。”これは必ずうまくいくだろう”と安心している部分こそ、どうせうまくいかないことは経験済みだ。物事とは、期待が高まる程に失敗を差し向ける性質がある。
初めは小さく、そして着実に。石橋を叩いて渡るためじゃない、提案がいつしか妄想に変わらないよう、自身を叩きながら進むためだ。設計も、計画も、人生も、先ばかり見ていては事前のトラブルに足をとられてしまうかもしれない、そうならないようにとスターティング・スモール。
メモ1枚分の未来を選択肢に入れるため、そんな、口だけの意識改革をした。