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猫の瞳


 まだ大河ドラマをやっているような時間なのに、フードコートには網がかけられている。宣言が解除されても、すぐに元の日常は戻ってはこない。僕は網をかき分けて、フードコートの中に入ろうとした。もう終わりだと警備の人に制止される。
「中に人が!」
 閉めるのなら先に状況を確認しないと。
 彼には何も見えていないようだった。
「見えないんですか。あそこに!」

 以前にも見かけたことがある。
 おばあさんはキャンバスを広げて猫を描いていた。
「今日の内に描いておかないと逃げてしまうのよ」
 手元しか見えていないようだった。
「もうここは閉まるみたいですよ」
 もう完全に閉まっている。
「ご親切にどうも」
(目玉を入れたら終わりにするわ)
 その時、フードコートの明かりが消えた。

「おばあさん?」
 おばあさんは消えた。
 静寂の中に猫の瞳だけが光っている。


#詩 #小説 #ショートショート #フードコート

#エッセイ #日記 #多様性


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