セカンド・フロア

 1階はレジとカウンターだけの僅かなイートイン・スペースがある。階段を上がると入り口からは想像できないほどの広がりが待っていた。迷うほど存在するテーブルの中から君は1つを選んで落ち着く。唐突な孤独感。天井が高く、周りには誰もいない。世界が変わった感じがする。突然地球の外に追い出されてしまったような不安を抱く。咎められるべき理由は数え上げればいくらでもあるように思う。不安に打ち勝つために君は折句の扉を開く。不安、孤独、自由。探していたのはこのような場所だったのかもしれない。

感情の
キリマンジャロが
月を切る。

関心が
恐怖に変わる
ツイートを。

カタカナは
気分によって
土を掘る。

 足音が階段をゆっくりと上がってくる。誰かが歌の中に入り込んでくる。コツコツコツ……。

「お待たせいたしました」

 歌から少し離れたところにカップを置いて店員は帰っていった。天井のあちらこちらに見える巨大な風車が力なく回っている。風は届かない。90年代ロックが流れている。美容院に置いてあるようなおしゃれな雑誌が並べられている。手にする者は誰もいない。

感情に
切れ目を入れた
角を立て。

神様は
聞く耳持たぬ
ツナサンド。

回文に
季節にそった
罪を交ぜ。

「そっちはいけません!」

 どこからともなく子供が駆けてきた。子供にいけない場所などないのだ。母親の制止を楽しむかのように広い店内を駆け回ったり、テーブルの上に乗ったりしている。
「そんなことをしたらいけません!」
 広いところがうれしいのか歯止めが利かない。勢い余ってテーブルの脚にぶつかって泣き出してしまった。
 歌が、かきつばたが、飛んでいってしまう。ただのカフェではない。託児所にもなっている。君は小さかった頃の自分を少し振り返る。母が奇妙な色のセーターを編んでいる。夜になり12月になりおやつになり春になり、いつになっても完成しないセーター。音楽が最初にかえった。90年代ロックは12曲入りのエンドレステープのようだ。

母さんが
きりんを描いた
慎ましい。

母さんが
きりんを描いて
つけ込んだ。

母さんが
気を病みながら
ついた餅。

 魚が焼けるような匂いが階段を上がってきた。趣向を凝らしたケーキだろうか。甘くはない新しいケーキだろうか。食べたくない。そんなの食べたくないと君は思う。自分たちの夕食だろうか。この店に住んでいるのだろうか。何時までだろうか。

解散の
きっかけを知る
罪を得て。


「724番の札でお待ちの方。お待たせしました」
 君は数字の書かれた紙切れを持って、カウンターに歩いていく。そこはもはやカフェでなくなっている。どこにいるのかはっきりとしない。

「今日はどういったご用件で?」
唐突な声が君を問いつめている。


Xday
恐れおののき
待つよりも
今を歌って
愛するがいい


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