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風の棋士の拾い将棋

「もういいや」
 また勝利の女神に振られてしまった。駒を投じるのも腹立たしい。しかし、私の力ではもはや挽回不可能。私は局面をまるまる道に投げ捨てた。棋理にもマナーにも反することはわかっていた。つまり、私はどうかしていたのだ。横たわる人間でさえも容易く見過ごされる街なのに、誰かが私の負け将棋を拾い上げた。

「まだ指せる」
 風の棋士は言った。道の上で指し継ぐ内に対戦者も戻ってきた。私はもはや助言できる立場にはなく、ただ成り行きを見守るだけだった。風の棋士は瀕死の玉形に手を入れて囲いを立て直した。いつの間にか美しい銀冠が完成した。眠っている角を復活させて敵玉に照準を定めた。
「そこしかない」そうして端から急襲をかけて居飛穴玉にあと少しのところまで迫った。紙一重のところで居飛車のカウンターの威力が上回った。「あと一歩か」風の棋士の力をもってしても駄目か。最後は私の身代わりになって潔く頭を下げた。

「最初から不利だった」
 風の棋士は私の将棋のつくりを責めた。反論はできなかった。
「どうして振ったの?」



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