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【第3回】ちょうどいいノイズ

自分を壊したかった

閑静な街、代々木上原から「街に降りよう」と思ったのは、もう一度街のノイズを感じながら制作したいなと思ったワケで、デザイナーとして刺激が欲しかった。

ノイズというのはいろいろあるんだけど、人のザワザワした感じや息遣いが自分にとって制作には必要不可欠だと気づいたのは、安定してきた自分をもう一度壊したかったからだ。デザイナーとして一周廻った感じがして、いろんなことにチャレンジしていた血気盛んだったあの頃の感覚を思い出していた。

もちろん、40も半ばの歳である程度の経験も積んできたので、20代のあの感じにはなれないワケだけど、とにかく「壊したい!」「捨てたい!」と思っていた。

人は一度積み上げてきたものを捨てたり壊したりするのは面倒くさいし、恐怖でしかないワケだけど、俺なりの成功体験というか「原風景」というものがあったからそんなに怖くもなく、むしろそうした方がいいという思いの方が強かった。

そこでどこの街に降りようかと、いろいろ探してみた。いままで会社を置いたところは無しということで、新宿、渋谷、六本木、麻布...あぁやっぱり憧れの原宿か...と思ったが山手線圏内はやめておくことにした。だいたい世のクリエーターと言われる人たちがデフォルトで会社を構える場所だし、街のノイズが高周波すぎて気が狂いそうになってしまう。

じゃぁ、少し離れた三軒茶屋、駒沢、二子玉、自由が丘、中央線沿線は個人的には無いし...(中央線沿線の人ゴメンなさい)いま流行り(?)の東東京で両国、上野も考えたが雑誌のhanacoっぽくて却下。そこで昔ダラダラしていた「下北沢」が候補にあがった。

下北沢ふたたび、「原風景」をもとめて

まわりからは、「金の匂いがしない」「ビンボー臭い」「若手すぎる」などいろいろご意見を賜った。大人になって遠のいていた「下北沢」に、ある仕事で関わっていた時に久しぶりに行ってみると、これが意外といい。ノイズが心地よかったのと街の規模感がちょうどいいので物件を探すことにした。探してみると、なかなかいい感じの広さの物件が無い。下北沢は小さなお店がひしめき合っているので、いい感じに広い物件には出会うことができなかった。

ひとつ気になっていた物件があった。建物の古い感じは気に入っていたんだけど、そこは広さ45坪くらいで会社の規模からしてオーバースペックで少々家賃も想定より高い。しかし他は想定より狭いのにこれまた高いときた。悩んだ末にその物件に決めた。

理由は、空いてる空間を人に貸して家賃をプラスしてもらえばなんとかなるな、と。もしくはまだそこまで流行っていなかったコワーキングスペースみたいな感じで人が出入りする場所にしてもいいんじゃないかという話になったのだ。

前述した「原風景」が自分の記憶にあったので、もう一度その風景を再現してみようと考えたワケだ。

最初は全く縁もない人を呼ぶわけにもいかず、編集プロダクションをしている後輩の編集者に声をかけ、ちょうど彼らも引越しを考えていたところだったので、タイミングが合った。いろいろ話し合って間借りしてもらうことにしてもらった。プラス、彼らと仕事を共にしていた俺の一番最初のアシスタントだったフリーのデザイナーKも参加することになった。自分の会社は雑誌や冊子など編集を必要とする仕事が多かったので編集者と空間を共にするのは親和性があったし、「原風景」に近いメンバーなるだろうと思った。

安定してきた会社に他のメンバーを混ぜ合わせるのも、ある意味いいノイズになるんじゃないかと考えたのだ。

(つづく)






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