見出し画像

ぼくらの現在地|vol.1 フォトグラファーHide Watanabe

学校を卒業して社会に放り出されて数年経つ30歳前後は、長い人生のモヤモヤ期とも言われます。今までと生き方がガラリと変わったこの時代に、モヤモヤを抱えながらもいろんな領域を横断している彼らが、どんなことを考えて、どう仕事をして、どう生きているのかを教えてもらう連載です。彼らの現在地と今の時代を照らし合わせて、これからの生き方を探っていきます。第1回目はフォトグラファーのHide Watanabeさんにお話を聞いてみました。デザインから写真にたどり着くまでの紆余曲折、写真で目指すところ、これから挑戦したいこととは。


入り口はデザイン


ーまずはじめに、大学時代のことを教えてください。

Hide Watanabe(以下 Hide) 大学時代はデザインを学んでいました。視覚、映像、空間と幅広くデザインについて学べる学校で、4年間でいろいろな分野を学びました。

ーはじめはデザインを学んでいたんですね。デザインに興味を持ったきっかけはなんだったんですか?

Hide 大学を選ぶ時に、自分が好きなものを改めて考えてみたんです。小さい頃は折り紙やペーパークラフトを作って遊んだり、タオルケットを椅子にひっかけてテントごっこをして遊んだり、とにかくつくるのが好きなこどもでした。そこで、つくることがしたいと思い、デザインの道に進みました。でも、最初はデザインのデの字も知らない状態で。早く学びたいもどかしさから、まずはとにかくインプットに励みました。友達からは歩くデザイン情報サイトって言われていて…。笑 それくらい展示やトークイベントにひたすら足を運んでいましたね。

ーそれはすごいですね。

Hide でも「つくらないとクリエイターじゃないじゃん」とある時気づいたんです。そこからワンデイワンタイポというプロジェクトをはじめました。文字が好きだったので、毎日ひとつタイポグラフィをつくって公開していけば、作品がいっぱいできるんじゃないかって思って。ひたすらつくっていくと、そこからまた繋がりが生まれたりして、だんだん楽しくなっていきましたね。

画像3

ワンデイワンタイポプロジェクト インスタグラム@1day_1typography


ーつくることで存在を知ってもらえるんですね。

Hide なんかやってるよねって声をかけてもらえるんです。自分がつくったものは大したことないと思ってるんですよ。でも毎日続けることでだんだんクオリティもあがっていくし、やってること自体にオリジナリティがあるのかなと思っていて。自分が好きなデザインの方向性もだんだんわかってきました。


はたと気づく「自分にはカメラがあった」


ーそこからカメラへはどう向かっていったんですか?

Hide 元々、アートディレクターやデザイナーという職業に憧れを持っていたんですが、デザインの中でも興味があるのはタイポグラフィだけで。そこでどう仕事に繋げて食べていこうか考えたんです。すると、自分はカメラを持ってるってことに気づいて。人を撮ってみようと、友達を誘ってモデルをしてもらったのがはじまりでした。それが楽しくなってきて、そのまま撮り続けている感じです。

画像6

ーそれで就職はせずに写真を生業としはじめたんですね。

Hide 立派なスタジオを借りられない頃は低予算でどれだけスタジオっぽく撮れるかを工夫したり。ストロボ機材を持っていないから、キャンプ用の投光器を友達から借りてフィルターを貼って代用したり、オフィス用の椅子の背もたれのあみあみからライトを照らすと、ちょっと影がブラインドみたいになって映ることを発見したり。その場にあるもので、これおもしろそう、あれおもしろそうっていろいろ実験しながら写真を撮っていました。

ー写真で食べていけると思った瞬間はあったんですか?

Hide 2年ほど前にアーティストのYonYonを撮った時ですね。彼女がインスタで、新しいスタイリストやフォトグラファー、ヘアメイクの人たちと繋がっていけたらいいなあって話をしているのを、友達が見つけて教えてくれたんです。早速連絡したら一番早かったみたいで、とりあえず会ってみましょうとなりました。ひょんなところからお仕事につながり、教えてくれた友達、YonYonにも感謝しています。

x1_YonYon_アーティスト写真

YonYon アーティスト写真


めざすのは“無意識”


ー作品を見ると女性モデルが中心ですが、モデル選びの基準などありますか?

Hide 女性が絶対ではないんですけど、女性の方に美しさを感じて。まだ自分でも見出せてない部分はあるんですけど、なんとなくそう感じています。

ー作品は、美しさを追求していってるんですか?

Hide そうとも言えなくて。綺麗なものの中に異物があるのが好きなんです。例えばお皿でも、綺麗なお皿よりも食べ終わったあとの食べかすがボロボロ散らばってるお皿にグッとくる。モノを撮る時はある程度自分でコントロールできるんですけど、人だと偶発的なエラーが起こったりして、それを撮るのがおもしろいです。

画像6

画像4

ー綺麗すぎると美しくないですもんね。美しさってちょっと歪みがある。

Hide 歪みや矛盾っていうワードは確かにありますね。あと、最近興味があるのは無意識をどうつくっていくか。できるだけ写真に集中できるように、自分の意識をなくしたい。今まではゾーンっていう言葉を使ってたんですけど、ゾーンに入ると他が見えなくなって、被写体とだけ向き合う世界に入る。その瞬間が多いほど、いい写真が撮れると思っていて。ゾーンや無意識の状態を作っていくことが、いいクリエイションを生み出すのかもしれません。

ーこれを撮ってやろう!と力むと撮れない。

Hide こどもを見ていて、いい顔してる!って感じてからごそごそとカメラを出しても遅くて。いい顔してるなって思う前にもう撮ってる状態が理想です。いいなと思う前に、無意識のうちにそれに気づく。例えば、相手が寒そうだなと思う前にタオルケットを渡すとか。最近、武術の漫画を読んでるんですけど、武術もそれに近い気がしています。笑

x4Be There:TiMT feat.mabanua,Hiro-a-key(origami home session)_カバーフォト

There/TiMT feat.mabanua,Hiro-a-key(origami home session)
カバーフォト

ーカメラをやっていて、モヤモヤすることとかありますか?

Hide ずっとモヤモヤしてますね。やっぱり周りで売れていく人がいると悔しいと思うし、もっと自分はできると言い聞かせています。楽しいことをやってると周りに人が集まってくるし、今はすごく楽しくいられてるんですけど、そこから先をもう少し頑張りたいです。

ーそれはいろんなことをやりたいってことですか?

Hide いろんなことというよりも、ほんのちょっとのことだと思うんです。下北沢に来たから、あそこにも寄ってみようとか、少し遠回りして行こうとか、そういう小さく頑張る積み重ねが大事で。そこはできてるんですけど、もう少し踏み込むことが自分はまだまだ弱いと思っていて。外では写真を撮ったりいろんな所に行ったりとアクティブなんですけど、家に帰って1人になった時に自分の中から湧き出るやりたいことに対しては、動くまでに少し時間がかかる。1ステップ目はポンと踏み込めるんですけど、2ステップ目がなかなか。そこが売れてる人との差なのかな。笑

これからの挑戦


ー8月後半からは福井へ行くんですよね。それは2ステップ目を踏み込むために?

Hide そうかもしれません。福井県の鯖江市にTSUGIというデザイン事務所があるんですけど、学生の頃に存在を知って。職人とデザイナーの架け橋になって、鯖江の文化を全国に広げていく活動をしている人達で、Iターンという言葉を知り、彼らがそういった活動をしていることに衝撃を受けて、「こういう活動に関わりたい!」と思ったんです。でもその時の自分は何もつくっていなかったし、行ってもやれることがないと自分にブレーキをかけてしまっていました。でも時が経って、今の自分には写真がある。福井にはなんの所縁もないんですけど、あの時かけていたブレーキを外して、思い切って行ってみようと思いました。

ー福井にがっつり腰を据えるんですか?

Hide とりあえず行ってみて、そこの人たちが自分の写真を知らない状態で仕事をお願いしてもらえるような関係性をつくれたらいいなと思っています。飲食店でアルバイトしてた頃に、バイト先の人が僕の写真を見ずに仕事をお願いしてくれたことがあって。そこから生まれる仕事って、自由にできるし自分の仕事の幅も広がると思うんです。

ーこの人だから頼んでみようって思っていただけるって素敵ですよね。仕事は人と人とで繋がっているのを感じます。

Hide 家族写真を撮るとか、そういうところから始められたらいいなと思いますね。最初は受け入れてもらえないかもしれないけど、そこを突破できるようになりたいです。例えばですけど、釘打ったことあるかって聞かれて、打ったことがなくても「打てます!」って言ってみる。その後でがむしゃらにどうにかしてみる。そうすることで自分の可能性が広がっていくと思うんです。

ーなんとかする底力が身につきそうです。

Hide 今まではなんとかなってきちゃってたんで、なんとかしなきゃいけない状況に自分を放り込む感覚ですね。自分を知っている人からすると、なんで行くの?って不思議がられるんですけど、一回今の流れを断ち切って挑戦してみたいんです。それこそ次につながるっていう根拠のない自信で動いてますね。

x2シネマティック:大和田慧_アーティスト写真

シネマティック/大和田慧 アーティスト写真


ー最後に、5年後はどうしていたいですか?

Hide 32歳ですね…!あんまり先のことを考えられないんですけど、写真以外のことはしてないレベルまでのぼり詰めていたいです。今はまだまだ撮りたいものが撮れてるとは思わないし。いい写真だねと言われるようにはなってきたんですけど、それを超えるような感想を聞けるようになりたいです。あとは都内と地方を行き来しながら好きな山の仕事もしてみたいですね。

Hide Watanabe (photographer)
1993年生まれ 神奈川県出身
instagram→@sumhide
twitter→@sumhide
note→https://note.com/hidewatanabe
お仕事依頼はこちらから→watahide516@gmail.com

(文:李生美)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?