046「夢浮橋」

 おぞましい歩道橋の、崩れてゆく音の、まもなく、終焉となる頃に、3羽の鳩がおりたち、緑色のやわらかい歩道と混ざりあって、月の崩れてゆく音の、うつくしさが、死霊の山のかたちを抉りだし、


 それまで、歩道橋があった場所には、むかし、そこに歩道橋があったという空間だけが存在し、ひろびろと、部屋に病妻の待つ、冬の二度目の早朝をむかえる残業を終えた青年が、眠ったまま、歩道橋をわたるおりに、病妻の待つ、長距離トラック運転手の、轟音と裂帛の声ともに、横転する、つい/終に、かれらもまどろむ歩道橋をわたり終えることはなく、山をのぼり、薄紅色の陽が白む。雑居ビルがみる夢の話は、いましがた語り終えられ、数匹の蛙と、一匹の豚が、感銘をうけている。


 「無数の巨大な石の舟」……市民税の取り立てのために、山頂の小屋で、職員たちの遺体が発見される。死体、遺体、骸ばかりの星……嫌気だ。四足歩行を始めようとする人々がいるが、なかなかうまくいかない。黒々とした瞳が、全身をおおいつくしている。新聞記事かなにかのように、遺伝子は書きかえられながら、人は人のかたちを失いながら、ときどき、どこからどこまでを一人と呼称するべきかも、見失いながら、1日25時間の夢の労働に精をだす日々を、よろこぶのだというのは、


  はてしなく巨大な、葉脈の家系図で、無限のごとき子の存在を暗示して、遠くの子らは、ドップラー偏移のために紅色に染まり、山頂の小屋の老人は、反政府運動に身を投じていたころ、数人の友人を、撲殺、あるいは、射殺され、それは、老人の乏しい友人のすべてであった。老人は、港に腰かけ、夥しい量の酒を飲みくだし、死にかけていたという。歩道橋を建立した労働者たちの、老人が、自らを罰して、どこにも、税はないのだ。


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