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041「ティー・タイム・リバー」
雪国の排水溝のように敬虔な未亡人が、薬局のとなりの定食屋で納豆汁を食べている。イグサで編まれたテーブルクロスに、ガラスの湯呑がひとつ、置かれようとしている。納豆汁の中には、一匹の蠅が混じっているが、女が気づいているかどうかはわからない。
石の匂いの雨がふる。
頭痛がする。
定食屋の鍵は、たやすく、はずされる。
街の貨幣が不足している。雪遊びをする間もない。だが雪は刻々と量を増してゆく。玄関先に放置している水槽にも、雪がたまっている。かつて、水をはったその奥に浮かべられていたものは、一枚きりの、黒い鶴の模様のついた大皿だった。それは母の嫁入り道具で、父は三日に一回、わたしを抱きあげるように、その大皿を水槽からとりだし、水槽と大皿を丁寧に磨いていた。歌いながら、父は、あたらしく水を満たした水槽に、ふたたび、大皿をしずめるのだった。
都電に乗って、地下鉄へむかう。トンネルの中は、焦げた肥料の香りがたちこめている。毎日、祖父に粥を作ってやらねばならない不眠症の妹のために、兄は、瓜を育てている。
図書館と陽光。白い、鶴のような花が咲いている。人の耳は醜い……すべての若い女は、早急に、耳を切りおとせ。彼女らのために、耳を保護する帽子を作りつづける老人たちのことを、誰もが知らなければならない。樫の流木のような足を折りたたんだまま、ゆっくりと、彼の手の中で、箱のような帽子が紡がれる。そのとき、怠惰の歳月は過ぎさり、納豆汁をすする、赤髪の未亡人の透きとおる器にも、黒い茶がそそがれる。
大きな瓜をかかえた娘が、河川敷に寝そべっている。黒茶と、瓜は、すくなくとも、寛容である。未亡人が、茶の器へ口を近づける。わたしは、鍋の湯に月食のような卵をうかべ、すこしだけ笑って、中指の腹で汗ばんだ耳を引き裂こうとする。
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