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電動キックボード等の交通ルールを復習してみよう (2023年7月施行対応版)

改正道路交通法が施行され、電動キックボード等 (特定小型原動機付自転車) の新交通ルールが始まってからほぼ1か月が経った。電動キックボードは、免許を持たなくても運転できるため、施行後の運転マナーについてもたびたび報道されている。この記事では、改めて電動キックボード等が従うべき交通ルールについて、なるべく単純化できるようにおさらいしてみよう。

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特定小型原動機付自転車とは

2022年4月20日に衆議院で可決され、2023年7月1日より施行となった改正道路交通法の一番の目玉は、通称「電動キックボード等」の交通ルールの整理であろう。報道では、よく「電動キックボード等」というように聞くが、法律の中では「特定小型原動機付自転車」と記載されている。「等 (とう)」が付いているのは日本の法令や公文書特有の言い回しで「それ以外の同種の類型が色々ある」ことを示している。

本題に戻る。特定小型原動機付自転車 (特定小型原付、特定原付) とは、次の基準を全て満たす車両だ。

車体の大きさ: 長さ190cm以下、幅60cm以下
● 原動機: 定格出力が0.60kW以下の電動機を搭載
● 時速20kmを超える速度を出すことができない
● 走行中に最高速度の設定を変更することができない
● オートマチック・トランスミッション(AT)機構がとられている
● 最高速度表示灯が備えられている

出典: 警視庁ウェブページ

また、「道路運送車両法上の保安基準に適合」「自動車損害賠償責任保険(共済)の契約」「標識(ナンバープレート)の取付」が必須となっている。運転者のヘルメット着用は努力義務で、16歳以上であれば免許なしで運転可能だ。飲酒運転は禁止、2人乗りも禁止されている。

交通ルールは原則、自転車のルールと同じ

次に、特定小型原動機付自転車に適用される交通ルールだが、いろいろなウェブページに説明が掲載されているが、端的にいうと「原則、(普通)自転車のルールと同じ」と覚えておくのが良い。自転車と別に特定小型原動機付自転車のルールを覚えなければならないとなると、普通の人は混乱してしまうはずだ。話を単純化するには、「すでに普段乗っている自転車と何ら変わりはない」と覚えてけばいい。実際、法律の細部を見てみるとそのようになっている。

しかし、問題はどちらかというと自転車の交通ルールをきちんと知っている人がどれだけいるのか、ということだろう。免許を持たない運転手もいるので、以下では自転車の交通ルールを確認しながら、自転車と特定小型原動機付自転車とで特に違う、もしくは注意しなければならない点を洗い出すことにする。

自転車の主な交通ルールの復習

通常の四輪自動車、自動二輪、原付等と比較して自転車に特有のルールを中心にいくつかピックアップした。

まず、自転車が通行するのは「車道の左側」である (歩道ではない)。特定小型原動機付自転車も同様である。また、車道の真ん中や右側を通行してはならない

図: 自転車 (及び電動キックボード等) の通行場所

尚、以下の「自転車」マークのある標識のある通行帯がある場合は、特定小型原動機付自転車もそれに従う。

右左折の方法
左折をするときは横断歩道等を渡る歩行者の通行を妨げてはならない。右折は信号機あり・なしの交差点にかかわらず、また原付の二段階右折の方法の標識の内容や有無にかかわらず、二段階右折が必須である。

見るべき信号機
車両用の信号機を見ることになる。ただし右折方向の矢印のみが点灯している赤・黄色信号の場合は進行できない。自転車通行帯を走っていて自転車用信号機がある場合はそれに従う。

ただし、歩行者用信号機に「歩行者・自転車専用」の標示がある場合、および後述するように歩行者と同等の扱いになっている場合は歩行者用信号に従う。

間違えやすい信号としては、「黄色信号は注意して進めではなく停止位置をこえて進行してはいけない」ということだ。信号が黄色になった時点で停止位置で安全に停止できない場合にはこの限りではないが、自転車や特定小型原動機付自転車は自動車と比べると速度が遅いため、黄色になったら即停止すべきだろう。

通行禁止等の規制標識
自転車が関係のある通行止め、および車両進入禁止、一方通行等の規制標識には従うこと。

図: 自転車に関係がある主な規制標識

補助標識の記載
ただし、規制標識に付属する補助標識で「自転車」が除かれている場合は通行できる。歩行者専用の場合は徐行義務 (すぐに止まれる速度で進行する) が発生するので注意。尚、自転車は「軽車両」「車両」に含まれるため、「軽車両」「車両」の記載がある場合にはそれにも従う必要がある。

例外的に歩道等を通行できる場合

自転車については、道路標識等により普通自転車が歩道を通行することができることとされているとき、車道又は交通の状況に照らして普通自転車の通行の安全を確保するため当該普通自転車が歩道を通行することがやむを得ないと認められるときは、例外的に歩道等を徐行で走行できる。歩道を通行する場合は、歩道の中央から車道寄りの部分又は普通自転車通行指定部分を通行しなければならず、歩行者優先で歩行者の通行を妨げることとなるときは一時停止しなければならない。

また、普通自転車通行指定部分については、歩行者がいないときは、歩道の状況に応じた安全な速度 (すぐ徐行に移ることができるような速度) と方法で進行することができる。

特定小型原動機付自転車の場合も自転車と同様に上記が当てはまるが、以下で定める規定を満たす「特例特定小型原動機付自転車」という走行モードになる必要がある。

① 歩道等を通行する間、最高速度表示灯を点滅させていること
② 最高速度表示灯を点滅させている間は、車体の構造上、6キロメートル毎時を超える速度を出すことができないものであること
※アクセルの操作により特定小型原動機付自転車を6キロメートル毎時を超えない速度で走行させている場合は、この要件を満たすものではないため、特例特定小型原動機付自転車には該当しません。
③ 側車を付けていないこと
④ ブレーキが走行中容易に操作できる位置にあること
⑤ 鋭い突出部のないこと

出典: 警察庁ウェブページ

自転車と特定小型原動機付自転車の相違点

ここまでは、特定小型原動機付自転車が原則、自転車と同じ交通ルールに従うことを述べてきたが、若干だが異なる部分もあるので、主に3点紹介する。

2人乗り禁止
自転車も特定小型原動機付自転車も2人乗りは禁止されている。ただし、自転車には以下の例外があり、東京都道路交通規則等の各都道府県の公安員委員会の規則で規定されている。

● 16歳以上の運転者が幼児用座席(もしくは幼児2人同乗用自転車)に小学校就学の始期に達するまでの者1人(もしくは2人)を乗車させるとき。
● 自転車専用もしくは自転車及び歩行者専用の規制道路で当該道路標識の下部に「タンデム車を除く」の表示がされている場合に、タンデム車にその乗車装置に応じた人員までを乗車させるとき。

出典: 東京都道路交通規則

歩道走行時のルール
自転車が自転車通行可能な歩道を走行する際には所定の部分を徐行する必要があるが、特定小型原動機付自転車の場合は、明確に走行モード変更を行い「特例特定小型原動機付自転車」となり徐行する必要がある。自転車には明確な走行モード変更はない。(本来は、自転車も歩道を走っているときには「特例自転車」のような特別な走行モードを意識して交通ルールに従う必要があるのだろう。)

また、自転車の場合は、運転者が児童、幼児その他の普通自転車により車道を通行することが危険であると認められるものとして政令で定める者 (13歳未満又は70歳以上又は身体の障害を有する者) の場合は、歩道の走行が条件なしで認められており、実質歩行者と同じ扱いとなる。

法定速度
最高速度の規制標識がない道路では、車両は法定速度で走ることになる。自動車は道路交通法施行令にて一般道路では時速60km等と定められており、特定小型原動機付自転車もその規格上法定速度が時速20kmと決まっているが、自転車を含む軽車両には法定速度が定められていない。

補助標識
標識内に「特定原付」という記載がある場合は、自転車には適用されないけれども特定小型原動機付自転車にだけ適用される規制であることを示している。

詳細は以下のページで確認できる。

よく寄せられる質問

最後に、読者が疑問に思うと思われることをいくつかまとめてみた。

自転車・バイク型の特定小型原動機付自転車はあるの?
特定小型原動機付自転車は通称「電動キックボード等」と呼ばれるため、「電動自転車」「電動バイク」型の乗り物はないのか、という疑問が出るかもしれない。

答えは「ある」で、特定小型原動機付自転車の規格に対応した新しい仕様の「電動自転車」「電動バイク」が各社から発売され始めている。

特定小型原動機付自転車は「軽車両」の規制を受けるの?
特定小型原動機付自転車はその名の通り原動機が付いているため軽車両ではないように見える。そのため、「軽車両」が対象の標識に従う必要があるのか、という疑問がわいてくるだろう。答えはYESで、特定小型原動機付自転車は標識令上は「普通自転車」に分類され、「普通自転車」は「自転車」、「自転車」は「軽車両」に含まれるため、交通ルール上は「軽車両」が対象の交通規則に従う必要がある

特定小型原動機付自転車は「原付」の規制を受けるの?
名前に「原付」が含まれているので、特定小型原動機付自転車は原付に分類され、原付の規制を受けるのではないかと思うかもしれないが、特定小型原動機付自転車は標識令上は原付ではなく自転車に分類されるため、原付の規制は受けない。逆に自転車に許可されてなく原付に許可されているものは対象にならない。

今まであった電動キックボードや電動自転車で「特定小型原動機付自転車」の基準を満たさないものはどうなるの?
基準を満たさないものは、形状が電動キックボード等であっても、特定小型原動機付自転車にはならず、2023年7月1日以降も、引き続き、その車両区分(一般原動機付自転車又は自動車) に応じた交通ルールが適用される。

結局、電動キックボードは安全なの?
これはなかなか答えるのが難しいが、客観的な立場から説明すると「実証実験も行い、必要と思われる制度をいったん用意したが、実際に安全性を高めていくには今後長年にわたる経過観察と人柱、制度改定が必要と思われる」ということだ。

筆者も電動キックボード等でよく交通違反をしている例を目撃する。よくあるのは以下のものだ。

よくある交通違反の例
● 一時停止無視
● 道路の左側以外の通行
● 一方通行の逆走 (自転車も規制を受ける区間)
● 横断歩道を横切る際に歩行者を優先しない
● 道路の斜め横断 (車道左側走行から右側に斜めに走行)
● 赤信号無視。特に歩車分離方式で車両信号が赤で歩行者信号が青になったときに走行を始めてしまう。

ただし、これらは前述のとおり電動キックボードだからというよりは、そもそも自転車の運転マナーも同様であり危険な運転が頻繁にみられる。

特定小型原動機付自転車の運転に関し、違反行為を繰り返す者について「特定小型原動機付自転車運転者講習」の受講を義務付ける講習制度も制度化されたが、効果は取り締まりの運用に依存するため、実際の効果は未知数である。

自動車もガソリン自動車が1900年代になって量産化、普及するようになって約120年が経つが、エアバッグやシートベルトの義務化などを経て死亡事故が減るようになってきたのはつい10年ほど前からであることを考えると、新しい乗り物の安全対策には長年にわたる経過観察と制度改革の工夫が必要と思われる。

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