見出し画像

難読規制標識: 一瞬でこれを判断できる? (神奈川 2)

日本の道路標識は規制実施基準が車種、時間帯、曜日等によって細かく規定/限定されている場合があり、他の国と比べて分かりにくいといわれている。「指定方向外進行禁止」も2つの規制が複雑な補助標識で同じ柱に設置されていることがあり、運転中の一瞬で内容を判断することが難しい場合がある。

この記事では、神奈川新聞の記事に書かれている複雑な規制標識について、さらに突っ込んだ分析を行ってみることにする。

横浜市のJR石川町駅南口付近の路地の規制

神奈川県のJR横浜駅から京浜東北線 (根岸線)を3駅乗ったところにあるJR石川町駅。横浜元町・中華街や外国人墓地などの有名な観光地への最寄り駅でもあり、狭い路地の古くからの駅前商店街も賑わっており、同時に山の手側にはいくつかの学校もある。

以下の地図の緑色の部分では、商店街の歩行者天国、通学路、一方通行の規制が重なってかかっている地域である。そのため、この地域では様々な複雑な規制標識を見ることができる。

今回お題になっている規制標識がみられる地域 (緑色)

複雑な規制標識たちとその内容

以下が、緑色の地域の路地にある複雑な規制標識の例である。❶~❼の写真の番号と、以下の地図の中の番号とが、標識が設置されている場所に対応する。

この地域に接する大通りである本牧通りにも、わかりにくい標識「指定方向外進行禁止」が設置されている。

規制標識がある場所 (❶~❼)

一部の路地には昔、可変標識も設置されたようだが、その後古くなり更新されていない。車通りが少ないと思われるこんな狭い路地にまで可変標識をつけるのはとても費用が掛かる一方、車通りがもっと多そうな路地は可変標識ではないわかりにくい標識が設置されている。どうやらほかの場所も昔は可変標識だった場所もあったようだが、更新の際に通常の標識に更新になったようだ。

同時期に設置された「止まれ」標識は日焼けして白化しほぼ見えない

規制内容を分解してみる

何故これだけ複雑な標識が必要になるのか、その理由は冒頭で出てきた3つの要素【1】「商店街の歩行者天国」【2】「通学路」【3】「狭い路地の一方通行」による規制がかかるからである。それぞれの要素による規制を分解して、地図上にもマッピングしてみよう。

【1】 歩行者天国: 
  ① 土曜・日曜・休日の12-18
  ② 日曜・休日の12-18
【2】 通学路: 日曜・休日を除く7.30-8.30
【3】 一方通行:
  ① 土曜・日曜・休日の12-18を除く
  ② 月曜から土曜 (休日を除く) 0-7.30、8.30-24、日曜・休日は0-12、18-24  

中村川と平行に狭い道が2本通っているが、それぞれで【1】歩行者天国の規制日が異なるのはややこしい。川に近い道 (①) は土曜・日曜・休日が規制対象なのに対し、遠い側の道 (②) は日曜・休日のみである。

さて、改めて規制内容を分析してみよう。特に【3】一方通行の規制内容についてよく見てみることにする。①のケースも②のケースも、【1】歩行者天国、【2】通学路の規制日時と比べてみると、一方通行が解除されている時間帯はちょうど歩行者専用の規制がかかっている時間と一致することがわかる。

ここで、【1】【2】歩行者専用の規制も【3】一方通行の規制も車両の限定はしていないことに着目しよう。横浜市では一方通行・車両進入禁止には他の都道府県で行うような自転車や軽車両を除く補助標識は見られないことが多いが、この場所でもその例に倣っている。つまり一方通行は自転車も逆走できない。また、歩行者専用も自転車が除かれていないため、自転車も通れない規制となっている。この2つを考慮すると、実は歩行者専用と車両進入禁止の標識が両方掲げられている規制は補助標識のない車両進入禁止一本に統一できることがわかる。

現状の規制のままでも、より簡素な標識は可能

このように、実はこの地域の規制はよく考えると規制標識がより簡略化できるものが多いことに気づくだろう。公安委員会側の気持ちとしては、それぞれの規制標識で規制日時を重ならないように設定したいのだろうが、かえって分かりにくくなってしまっている。

  • 一方通行関連 (一方通行、指定方向外進行禁止)の規制標識は補助標識を取る

  • 車両進入禁止は補助標識を取り、同時に歩行者専用の規制がされている場合は本標識も取る

この2点を実施するだけでも標識はだいぶシンプルになる。(現に交差点によっては車両進入禁止の規制のみになっている場所もある)

指定方向外進行禁止の規制は2通りの考え方でさらに簡素化 (東京都方式、千葉県方式)

❶❷❼については、指定方向外進行禁止の規制がまだ分かりづらいので、さらに簡素化を考えてみる。

まず❷だが、区画整理前の狭い道路同士の交差で優先道路がどちらかが明確でなく止まれの標識もない。

❷の現状

標識数が一番少ない方法は以下の設置方法である。これは東京都でよくみられる方式で、指定方向外進行禁止と一方通行・車両進入禁止や規制標識はどちらかを省略する。ただし、今回の場合は路地が狭いために交差する道路に設置されている規制標識を見つけづらい可能性がある。

❷の改善案-1 (最小の標識枚数)

他の代替案としては、直進のみの規制標識を歩行者専用に変更することだ (改善案2)。多少意味が変わってしまうが、直進した先も歩行者天国になっているため実質的な影響は大きくない。もしくは、改善案1との組み合わせでもともとの標識柱の規制標識数を減らすこともできるだろう (改善案3)。

(左) ❷の改善案-2 (現状の標識をなるべく活用)、
(右)❷の改善案-3 (現状の標識をなるべく活用しわかりやすくする)

次は❶のある「諏訪神社前」交差点の規制を簡略化してみよう。以下は現状である。

現状の「諏訪神社前」交差点の規制

先に出てきた簡略化の手法を適用すると、以下の通りとなる。

一方通行関連の標識を簡素化

ここからさらに、「東京都方式」で標識を減らすと以下の通りになる。

歩行者専用の規制は時間もかなり限定されているので、左折しようとして左を確認した車が歩行者専用の規制標識が見えれば良しとするのが「東京都方式」

もうひとつの方法は、指示標識の一種である規制予告標識を使う「千葉県方式」である。千葉県では複雑な規制のある交差点でこの方法をメインに取っており割と分かりやすいと思われる。

規制予告標識を用いる「千葉県方式」

最後は❼がある「元町」交差点である。現状の規制は以下の通り。

現状の「元町」交差点の規制

❼のケースで特に気になるのは、交差する道路の規制標識には表れていない「大型等」に対する規制である。本牧通りは両方向とも大型等の場合は終日左折、右折ともにできない。これは、交差する道路に大型等通行禁止の規制がかかっていることを意味する。神奈川県の場合は、よく交差する道路側の車両通行止め標識を省略して、指定方向外進行禁止の標識のみで規制をしているパターンが見受けられるが、これが規制を分かりにくくしている。

交差する道路側に大型等通行禁止の規制標識を表示させ、本牧通りには「千葉県方式」の規制予告標識を設置してみると、以下の通りすっきりする。

大型の規制予告標識の設置にコストがかかるという場合は、既存の指定方向外進行禁止の補助標識を簡略化して、歩行者専用の規制の記載を省略する「東京都方式」を検討してみるのも良いだろう。

こちらもどうぞ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?