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家族について感じる心地悪さ~「隣りの女」

「父の詫び状」がよかったので、短編集も手に取ってみた。
「隣りの女」である。

なんというか、心にまとわりつくような作品ばかりである。
ハッピーエンドともバッドエンドともつかず、湿った余韻が残る。

私の物心がついたころにはすでに向田は他界していた。
そして、彼女が残した作品やその逸話ばかりが語り継がれていくのを見聞きしてきている中、これが彼女の作品に真正面に向き合った最初のものと言えよう。
そして感じたこのあまりのえぐみ。勝手ながら、彼女の作品はもっと洒脱でサラリと読めるものと思い込んでいた。

5編の短編小説から成るのだが、いずれも家族や夫婦といった極めて近しい人と関わりを描いている。家族との距離感はとても難しい。否応なしにある距離を定められている気がするからだ。イヤだと言って遠ざかることも難しい。かといって近づきすぎると反発する。その誰もが深奥に抱えている心地悪さを、あけすけに取り出して見せつけてくるようだ。

そんな誰もが見て見ぬふりをする部分を、いくつものストーリーで紡ぎだせるというのは、やはり並みの作家ではないのだろう。見聞きしてきた評判は違わぬものであった。

でも、正直、あまりあれもこれも読んでみよう、という気にはならないなぁ。ちょっと重い。元気な時に読まないと憑かれてしまう、そんな力のある作品だと感じた。

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