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何度でも味わえる総合小説~「罪と罰」

2023年になり今年の目標は何にしようかと考えていたころ、ふと何かの映画を観たときに、「罪と罰」に似ているな、と思うことがった。
そんなきっかけで、今年の目標をドストエフスキーの五大小説を読破することにしてみた。我ながら無謀だろうか。。

さて、まずはその「罪と罰」。これが初読ではない。高校生の頃に一度読んだことがあった。
高校生の頃ってむやみに背伸びしたくなる年ごろで、こういう重厚広大な文学や哲学書に憧れたものだった。その中の一冊というわけだから、当然「読むこと」自体が目的となっていたのだろう、中身はほぼ忘れてしまっていた。ラスコーリニコフが老婆を殺すというごくごく基本的な知識が残っただけであった。

まず読んでいて強く感じたのは、主人公ラスコーリニコフの苦しい心中とシンクロするかのような文体に、大いに疲弊させられるということだ。
一つのことをとことん深く思いつめるかと思いきや、思考が跳躍してさまざまな話題に移り変わる。これは読んでいてとても疲れる。でもこれがラスコーリニコフの胸中そのものなのだろう。

そして物語の進行は一定方向にも関わらず、犯罪小説であり恋愛小説であり、信仰や現存在をもテーマに扱った、まさに総合小説たらんとする構成。どうやってこういうプロットを考えられるのだろうかと唸らずにおれない。

しかもこのときドストエフスキーは、多額の借金を背負い「他の作家なら発狂しそうな追いつめられた生活条件の中で」雑誌連載として1年で書き上げたという。これはもう息をすることそのままが、小説を紡ぐことになっているとしか思えない。彼の背負う過酷な運命であり生きざまのなせる業なのか。

これほど重層的な小説、たしかに一読だけでは受け止めきれない。
読むたびに違う味わいができそうな、まさに歴史に残る傑作と呼ぶにふさわしい作品だと、今更ながら思い知らされた。



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