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トンネル天国/ザ・ダイナマイツ Tonneru Tengoku / The Dynamites

駅前のレコード店に出入りしているうちに、いつも来る常連さんたちと少しづつ仲良くなってきていた。
ある日、いつものようにレコード店内でいろいろレコードを試聴させてもらっていると、常連のお客さんのT野さんがお店に入ってきてお店の長兄さんにこう言った。
「ねえ、誰かベース弾ける人知らない?」
「う~ん、ちょっと聞いてみないと分かんないな~」
そこでT野さんは振り向きざまに俺に向かって言った。
「お兄さん、ベース弾ける?」
「あ、ギターなら弾けるんですけど」
「おお、いいよいいよ、ギター弾けるなら大丈夫だよ。一緒にバンドやろうよ、ベースでよければだけど」
俺は一瞬考えたけど、このT野さんは10歳ぐらい年上で、古着屋に勤めてて、いつもジミヘンみたいな派手な衣装を着ていた。

絶対面白いでしょ。

「いいですよ、ベース弾けるか分からないけどやります。でもベース持ってないです」
俺が答えるとT野さんはニッコリ笑って言った。

「大丈夫、俺のヘンテコなベース貸してあげるから」

「ところでどんな感じの曲をやるんですか?」
「ネオGSだよ」
「ネオ?普通のGSじゃなくて?」
「ネオ、ネオ。B級だよ。暇なら家においでよ、レコード聴かせてあげるから」
そう言われてT野さんの家までついて行った。
するとすでに誰かもう一人家の中にいて、座ってビールを飲んでいた。
「あ、紹介するね、ボーカルのH君」
「はじめまして」
Hさんはレコード店で会ったことはない。
「同じ古着屋の店員なんだ」
確かに言われてみれば結構奇天烈な格好をしている。
おかっぱ頭でザ・バーズのロジャー・マッギンみたいな横長で四角い色つきのメガネをかけていた。

うおおおおおおおおおおおおっ!
この人もサイケな人だ。
三人のうち二人がサイケな人だとなんだか自分が間違っているような変な気がした。

「なんか最近またスライが再評価されてるみたいだね」
HさんがT野さんに言うと、
「え~、そうなの?スライなんて前から良いって言ってたよね俺たち」
当時はスライ&ロビーのレゲエを聴いていたのでそのことかな?と思ったが、あとから考えればスライ&ザ・ファミリーストーンの事だったのだろう。当時はスライ&ザ・ファミリーストーンを知らなかったのでそんなセリフをぼんやり聴いていた。

T野さんはプレーヤーでGSのシングル盤を何枚かかけて聴かせてくれた。
「GSならタイガースとかスパイダースとかテンプターズなら知ってます」
「ダメダメ、それはA級。俺らがやりたいのはB級GS」
「ダイナマイツとかアウトキャストとかカッコいいんだよー」
「ダイナマイツのトンネル天国なんてイカしてるよ!」

「イカす」なんて今どき使わないだろ、と思ったが面白がってあえて昔の言葉を使ってるんだなきっと。
T野さんとHさんはB級GSが最高だと言って二人で酔っ払って歌いだした。
かなりいろんな音楽を聴いてきて一周廻ってB級GSにたどり着いたのかな?
それにしてもヘンテコな曲だな。転調とか。おもろいけど。

とにかく楽しい夜だった。

でもなんでこの人たちとバンドやることになっちゃったんだろ?
いつのまにか巻き込まれて自分でも不思議だったけど面白い事になりそうな予感がした。


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