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運動苦手ボーイが体育で褒められた話

最も苦手な教科を聞かれたら食い気味で「体育」と答えるほどに、中学生の頃は運動が苦手だった。

一応バドミントン部に所属していたわけだが、基本的に体を動かすことは不得手。筋力もなければ体力もなく、スピードもジャンプも標準未満。体も小さかったので、バレーボールやバスケットボールなんて公開処刑に値する。そんなわけで、体育の授業はあまり好きではなかった。

ただ、唯一好きな体育の授業があった。それは、マット運動だ。

スライスした巨大切り餅みたいな体育館マットを敷き、前転だの後転だのと動き回る。柔軟性はかなり高かった(股割りができた)ので、ある程度の技は楽しみながらできたと記憶している。


中学3年のとある日、体育の先生が僕ら生徒に課題を課した。
6人一組でグループを作り、色々な技を組み合わせて演武(のようなもの)を披露するのだそう。

グループ作りは陰キャの最上級難関クエストだが、幸い当時は友人に恵まれていたので、あっさりと6人組ができた。

しかし、問題はここからだ。

同じグループの5人は、お世辞にも運動能力が高いとは言えない者ばかり。僕も人のことを言えないのは前述のとおりなのだが、全体的にレベルの低い連中が集まってしまった。僕ともう一人が「倒立前転とロンダートならできる」というのが関の山で、後は前転(後転)、開脚前転(後転)、伸膝しんしつ前転(後転)、飛び込み前転くらいしかできない。あまりにも手持ちのカードが少ないぞ。さてどうする。

そこで僕は一計を案じた。
無理に難易度の高い技をやるのではなく、できる技をていねいにやろう。一つひとつの技をみんなで揃えれば、綺麗に見えるかもしれない。一応、2人による倒立前転とロンダートだけ、フレンチで言うところのメインディッシュにあてよう、と。
グループの仲間たちは、全員この提案に快諾してくれた。一緒にレボリューション起こそうぜ!


発表の時間になった。

運動神経バツグンの陽キャ男子たちが、やれハンドスプリングだ、やれ首跳ね起きだ、やれ後転倒立だと、次々と派手な技を繰り出していく。
やめてくれ、そんな異次元のパフォーマンス。こっちの切り札を前菜みたいに使わないで。
スクールカーストをまざまざと見せつけられた気がして、僕は委縮した。
でも、難しい技をやればいいってもんじゃないだろう。構成もまた評価の対象になるので、そこでポイントを稼げればいいんだ。

僕らのグループの出番が来た。
練習どおり、きっちりぴったりタイミングを合わせて、前転や後転を粛々と披露していく。メインディッシュの『2人同時の倒立前転~ロンダートを添えて~』も、なんとかクリア。
すべての技を出し終えると、パラパラと拍手が聞こえた。地味で質素な演武だったが、僕らは達成感に満ちていた。

この授業では、出番ごとに先生が講評してくれる。僕らの演武を見た先生は、生徒全員に向かってこんな風に言ってくれた。

「このグループの演武は、簡単な技ばかりだったよね。でも、一つひとつていねいにやっていたし、タイミングも合っていた。難しい技ができなくても、工夫して構成を作っているのがわかる。とても素晴らしい演武だった」

僕はとてつもなく嬉しかった。先生は僕らの意図をしっかり汲み取ってくれて、それを好ましいものとして評価してくれたのだ。
体育の授業は能力勝負だと思っていた。しかし、運動が苦手でも工夫次第で評価されることもある。そのことに気づいた瞬間だった。

中学の体育の成績はほとんど3だったが、この授業があった学期だけは4をもらった気がする。それはきっと、ここでの一計がもたらした最高の演武によるものだったに違いない。


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