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「チャレンジド」のことを僕らは知らない

突然だが、「チャレンジド」という言葉を知っているだろうか。

Challenged(チャレンジド)というのは「障がいを持つ人」を表す新しい米語「the challenged (挑戦という使命や課題、挑戦するチャンスや資格を与えられた人)」を語源とし、障がいをマイナスとのみ捉えるのでなく、障がいを持つゆえに体験する様々な事象を自分自身のため、あるいは社会のためポジティブに生かして行こう、という想いを込め、プロップが1995年から提唱している呼称です。

https://www.prop.or.jp/about/challenged.html

要するに、日本語で言うところの「障がい者」のことを指す言葉である。

「障がい者」とは、おそらく「生きていく上で障害の多い者」という意味でこのような名称になったのだろうと思う。
そこで、ネガティブな存在から脱却できる社会の創造を目指し、「チャレンジド」という呼称が提唱されたらしい。

なぜこの言葉について語っているのかというと、役場職員時代に力を入れた事業の一つ、それが関係しているからだ。



9年半の役場職員生活で、障がい福祉の部署はうち5年半を占めている。

ただ、当時働いていた町は、お世辞にも障がい福祉政策が充実しているとは言えなかった。むしろ、かなり遅れていた方だと思う。

僕が担当になった頃は、地域自立支援協議会が(やっと)発足し、何か新しいことをしようという気運が高まっていた。
しかし、施設を押っ立てるような予算はないし、福祉改革のエキスパートなんて人もいない。
そもそも「障がい」とは何なのか、協議会メンバーである行政や関係機関の職員ですらよくわかっていない。そんなレベルだった。

この時点でわかったことは、誰も何もわかっていないことだ。

事業を行おうとする者がわからないのだから、一般住民のほとんどが同じようにわからないのだろう。
ならば、「障がい」への理解を深め、広く周知することが、今この町にできる最初の一歩ではないか。

そう考えた本協議会は、主に2つの事業を実施することになる。


一つ目は、カレンダーの作成。

A4サイズの紙に1か月の予定(障がい福祉や療育に関するもののみ)を書いたものを広報誌に折り込む、というものだ。

最初は、当然ながら書き入れる予定がなく、スッカスカでまっさら。

しかし、「『書くことがない』ことを知ってもらう」のも狙いの一つだった。

自分の住む自治体がどれくらい障がい福祉の事業を行っているかを詳しく知っているのは、関係者がほとんどだ。

だから、まずは住民に現状を知ってもらうことが大切だと判断したのである。

その後、文化サークルや子育て支援団体などの情報を盛り込むことになったので、少しではあるが進歩はしている。


二つ目は、「チャレンジ体験会」の開催。

これは、要するに“障がいの疑似体験”で、体験を通して「障がい」についての意識を高めることを目的としている。

「チャレンジ体験会」とは本協議会のオリジナルネームで、冒頭に書いた「チャレンジド」の考え方に則って名付けた。

内容としては、車いすに乗る体験、車いすを押す体験、ユニバーサルデザインの紹介など。
知っているようで意外と知らない、それでいて取っ付きやすそうなものを選んだ。

他には、当事者(身体障害者福祉協会の分会長)の講話もあった。
分会長さんが車いすアスリートだったこともあり、競技用車いすや日本代表ジャージを持ってきていただき、実物を見たり触れたり乗ったりすることもできた。

ちなみに、担当職員による障がいについての説明ということで、僕が何度かプレゼンをしたこともある。

この事業は、ありがたいことに町内の小中学校に受け入れられ、福祉の授業の一環として毎年開催させていただくようになった。どうやら僕が退職した後も続いているようで、得にも言われぬ嬉しさがある。



以前「障がい」に関する記事を書いて、noteのコンテストで賞をいただいたことがある。

この記事にも同じようなことを書いたが、決して「障がいを持っている=劣っている」ではない。

むしろ、自身の能力を存分に発揮できる環境下にあれば、健常者(便宜上この言葉を使用する)とは比べ物にならないくらい生産性の高い仕事ができるのだ。

しかし、それをわかっている人はどれくらいいるのか。きっとそれほど多くはないだろう。

僕らは、「障がい」のこと、「チャレンジド」のことをよく知らない。

だからこそ、知らないことに目を背けず、向き合っていく必要がある。


元プロ車いすテニス選手の国枝慎吾さんに国民栄誉賞が授与されるなど、「障がい」への関心は僕が担当していた当時よりも大きくなっているような気がする。

今以上に理解と周知が行き渡り、「チャレンジド」という言葉が当たり前になる時代が来るかもしれない。

そうなったら、僕の5年半のチャレンジは決して無駄じゃなかったと、自分で自分を褒めてやろうと思う。


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