足早に
追いかけることをしなかった僕は、二人の終わりを予感していた。青信号になった瞬間、目も合わせずに歩きだした君は、もう次に向かって進んでいる。通りすぎていく人達は、ここに一つの別れがあったことなんて知らない。君はもう、戻らない。去るものが振り返らないのは当然の事だ。
そして、今日は、僕が足早に去っていく方になった。前の彼女と比べたわけでもない。寂しさを埋めるために一緒にいたわけでもない。
-ううん、違う。僕は嘘つきだ。
傷が癒えてきたころに、ふと、心が叫んだ。あぁ、僕は多分、この人を愛してはいない。
「自分勝手な僕の思いに付き合わせてごめん」
そんな傲慢な言葉を発しようとは何様かと、窓に映る僕に問う。君は泣きそうな顔を歪めながら、負けるものかと口角をあげた。こんな僕のためにありがとう、そう言えば、もっと君を傷つけるだろう。
足早に去る者は、振り返ってはいけない。それが、きっと最後の優しさなんだ。
僕は歩きだす。これでいい。これでいいんだ。
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