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チャーリー・カウフマン スピーチ Part 2. ありのままの自分

ここで最近知った名言を紹介します。「我々は対話をしているのではない。新聞や雑誌、ダイジェスト誌をざっと読んで寄せ集めた事実や理論を武器に論破し合っているのだ」。実は、この言葉は1945年にヘンリー・ミラーが書いたもので、今の時代に合ったものだと思います。恐らく、世の中は長い間、同じ潮流に乗ったままなのでしょう。今や世界中で、毎週のように映画やテレビ番組、新聞、YouTube、インターネットといった娯楽に数え切れなほどの時間が費やされています。こうした習慣があっても、私たちの脳が影響を受けないと信じるのはおかしなことです。

また、少なくても同じぐらいにおかしなことは、企業の経営陣が大衆の気をそらすことや、操作することは難しいものだ、と信じることです。大衆は飢えています。ですが、大量生産された“ゴミ”を与えられているために、そのことに気づいていないかもしれません。ゴミはカラフルで派手な包装紙で包まれていますが、「いろんなものをもっと買ってもらうためにはどうすればいいのか?」と机に向かって考えいている人たちの手によって、ポップタルト(アメリカの古くからある甘いお菓子)やiPadなどと同じ工場で作られているのです。

そして、彼らはとてもうまく仕事をこなします。その一方で、その仕事ぶりが君たちの手にしているものなのです。というのも、その仕事ぶりの結果として、ものが作られるからです。彼らは君たちにそれを売っています。そして、今、世界はその上に成り立っています。政治も政府も企業もその上に成り立っているのです。

対人関係もその上に成り立っています。そして、私たちは飢えています。私たち全員が、です。お互いに殺し合い、憎しみ合い、ウソつきや悪魔だと呼びつけ合うのです。なぜなら、そのすべてがマーケティングになるからです。そして、私たちは寂しさや虚しさ、不安感を持ち備えているために、勝利を望んでしまうのです。勝利することですべてが変わると信じさせられています。ですが、勝利はありません。

では、どうすればいいのでしょうか? ありのままの自分を話せばいいのです。自分の生活や仕事の中で本気になって話せばいいんです。いなくなってしまった人に向かって話してみましょう。まだ生まれていない人、これから500年後に生まれてくる人に向かって語りましょう。君の執筆した作品は君の時代の記録になります。そういうものなのです。ですが、もっと重要なことは、君が自分に正直にいれば、君の作品を読んだ人がその人の住む世界の中で寂しさを紛らせることができるのです。その人は君の中に自分自身がいることに気づき、それによって希望が持てることになるのです。私が今までそうでしたし、そのことをこれから何度も確認し続けていくことになるでしょう。それは私の人生において非常に重要なことです。世界に物を売るのではなく、世界に向かって正直に自分のことを話すのです。誰かに悪知恵を吹き込まれ、世の中がうまく回るように仕事をして、ものを売ることをみんながやるべきだと考えないようにしてください。そういう思考にならないように心がけるのです。

E.E.カミングスの言葉に、「四六時中、全力で君を大衆に染めようとする世の中で、他の誰でもない自分自身でいることは、誰にでも立ち向かえる最も過酷な戦いに挑んでいることを意味する。決して戦いをやめてはならない」というのがあります。世界は君を必要としています。君には、パーティーでのカッコいい身のこなし方の本を読んでパーティーに行って欲しくはありません。そういった本には本当に心がそそられてしまいます。ですが、その誘惑に屈しないように抵抗するのです。世界は、君にパーティーで優しさをもって「わかりません」と言うことで、本当の会話を始めて欲しいのです。

私が受けた初の脚本執筆の仕事はクリス・エリオット主演の『ゲット・ア・ライフ』というテレビドラマでした。その番組はクリエイターであるクリス・エリオットとアダム・レスニックの2人にだけ発言権があったようなものでした。2人が一緒に仕事をしていた『デイヴィッド・レターマン・ショー』から、クリスの演じるキャラクターが生まれた経緯がありました。それだけに、作家アダム・レスニックの脚本が番組の中では最高なものでした。私たちはみんなアダムの意向で書くように心がけていました。それが仕事でした。

私は自分の書いた物に不満がありました。ですが、私の仕事が誰かの意見を真似ようとしている限り、その不満に対する解決策がないことに気づいていました。もしかしたらアダムのレベルに近づけたかもしれませんが、アダム以上に上手くなることは絶対にありませんでした。リッチ・リトル(ものまねタレント)がジョニー・カーソン(テレビ司会者)本人以上に上手くジョニー・カーソンにはなれないのと同じです。

その時の確かな解決策は、諦めるのではなくて、私が他の誰でもない自分になれる状況で自分自身を見つける努力をすることでした。自分自身になるのです。それは簡単なことではありませんが、大切なことです。その過程には色々なことがあるので、簡単ではありません。大抵の場合、大きな障害は、自分はつまらない人間だという根深い信念です。自分は面白いと言い聞かせることはおそらく無理なことなので、こう考えてください。「自分は面白くないかもしれないけれど、自分が与えなくてはならない唯一のことは自分自身だ。それに、自分は何かを与えたい。嘘偽りのない形で自分自身を与えることで、自分は世の中に大きく貢献することになる。なぜなら、それは稀有であり、いつかは役に立つことになるからだ」と。

Part3に続く

スピーチ原文および映像の著作権はBAFTAに帰属しています。

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