シェア
リウノタマシイ
2023年9月23日 17:00
(昭和世代 或る夏の夜の夢) ごく簡単に、すすめよう。 去年の夏といえば、梅雨に雨が降らなかったり、と思ったらまた、大雨にもなったりの、へんてこな夏であったが、これは、その時分の話である。(と、男は数十年前、筆者に語り出した。) 私は六月に学校を放り出されていたくせに、学生だといつわって、一カ月ほどアルバイトをした。奇矯な精神の時期でもあって、仕事のことなどまるきり頭にはなく、といって
2023年9月24日 12:46
(昭和世代 或る夏の夜の夢)私は怖気づきながらも避難のすべを考えた。付近の集落まではそう遠くないはずだし、とうぜん上り坂より下り坂を選んだ。 走り出すと再び体はおどりあがり、もう、こけないようにすることしか頭にはなくなった。幾ばくも走らないうちに、忌まわしい鎖は外れてからまり、たちまち後輪はロックされてスリップし、エンジンがぷすっぷすっと断続的の吐息とともに切れる。そのつど悪路へ下車しなけ
2023年9月26日 22:19
(昭和世代 或る夏の夜の夢) 朝だとわかるやいなや、羞恥に似た嫌悪感がつま先まで広がり、全身が麻痺したようにしばらくは動けなかった。半身を起こし、周囲を見ると原因がわかった。 バスを待つ客が数人いて、こちらをチラチラのぞいていた。私の姿はかなり不潔だった。早いこと立ち退きたかった。それにしても、この吐き気はどうだ。生肉の臭気がする。 峰には雲がひくく迫り、川べりの道端の人はよそよそしか
2023年9月29日 16:44
(昭和世代 或る夏の夜の夢) 長く生々しい無気味な夢からやっと私は逃れ出た。 我に返ると、川沿いの停留場のベンチへ横になっていた。空も晴れ上がっているし、バスを待つらしい数人の男女も、なごやかな談笑の最中で、そこには田舎特有の大らかな空気が醸されていた。妙齢の女性もいたが、おかまいなしに、私は泥まみれの衣服を着替えると、出発する準備にとりかかった。準備といっても、荷をくくり、ジュースを買っ
2023年10月2日 11:56
(昭和時代 或る夏の夜の夢)1 おろかな宵 ごく簡単に、すすめよう。 去年の夏といえば、梅雨に雨が降らなかったり、と思ったらまた、大雨にもなったりの、へんてこな夏であったが、これは、その時分の話である。(と、男は数十年前、筆者に語り出した。) 私は六月に学校を放り出されていたくせに、学生だといつわって、一カ月ほどアルバイトをした。奇矯な精神の時期でもあって、仕事のことなどまるきり