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四神京詞華集~shishinkyo・anthologie~

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#歴史ファンタジー

四神京詞華集/シンプルストーリー(20)

四神京詞華集/シンプルストーリー(20)

【穢麻呂のターン】

一方の穢麻呂と有鹿の戦いは彼らの番犬と番鳥(?)に比べてはるか常識的で地味で絵にならないものであった。
むしろ勝負は論戦だと言わんばかりに、とにかく無駄口が多い。

穢麻呂「我に言わせれば、このアジトの場所など容易に察しがつく。白虎岳は木々の少ない岩肌、玄武山は内裏を背から見下ろす禁足地。ならば残るは青龍峰に連なる山々の麓。さらに言えばその森を虱潰しにさらえばよいものを衛士が

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四神京詞華集/シンプルストーリー(19)

四神京詞華集/シンプルストーリー(19)

【狛さんズのターン】

○人さらいのアジト(夜)
苦戦の原因は勿論、狛さん自身のメンタルにあった。
相手は「お前行け」「いやお前が行け」と譲り合いの精神で一人一人倒れて行った田舎盗賊とはわけが違うようだ。
絶妙のコンビネーションで襲いかかって来る右覚と左輔。
一方が攻撃の時は一方が防御に徹し、こちら側はいつのまにやら防戦どころか回避で一杯一杯なところまで追い込まれている。
と、脳裏に語りかけてくる

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四神京詞華集/シンプルストーリー(18)

四神京詞華集/シンプルストーリー(18)

【さあ!戦いだ!】

〇人さらいのアジト(夜)
最初に狛亥丸に襲いかかった盗賊は「?」と思った数秒後に気絶した。
ただ仮面の男と刃を交えただけなのに次の瞬間には太刀が真っ二つに折れ、その次の瞬間に延髄に重い衝撃が走り、その次の瞬間には意識が消失した。
これを彼が口にした言葉、つまり台詞のみで表すと。

雑魚盗賊1「はっ? はっ! はっ……」

である。
小説に比べ脚本とはつくづく楽な仕事だと思

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四神京詞華集/シンプルストーリー(17)

四神京詞華集/シンプルストーリー(17)

【そして開始された、作戦】

穢麻呂「闇夜の神隠しを知っているか?」
ナミダ「噂だけは。月のない夜に雑仕女がかどわかされる事件ですよね」
穢麻呂「我が四神京に来る前からだそうだがな」
ナミダ「もうひととせ以上になりますね。衛士の網にも引っかからぬ事から都の怪異のひとつとして語られていました」
穢麻呂「衛士の目をかいくぐりか。当然だ。おそらくは衛士の動きを把握し指示を出し操れるほどの大物が黒幕なのだ

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四神京詞華集/シンプルストーリー(16)

四神京詞華集/シンプルストーリー(16)

【百屋の営業活動】

百屋「はい、今日ご紹介するのはですね、香木でございます。香木といってもそんじょそこらの杉やヒノキじゃありませんよ、奥さん」
ナミダ「いえ奥さんじゃないです」
百屋「香木の原産地、ご存じですか?」
ナミダ「唐っすか?」
百屋「惜しい! 唐の南の黄金諸島なる島々でのみ捕れる、枯れた木を加工したものです。お嬢さん」
ナミダ「はいお嬢さんです」
百屋「沈香。伽羅、百壇、龍脳、そういっ

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四神京詞華集/シンプルストーリー(15)

四神京詞華集/シンプルストーリー(15)

【百屋です】

「ナミダ……汝の名はナミダ。これよりはそう名乗るがよい」

的な?
そうちょっと格好つけた感じで小粋なシーンを自己演出してみた穢麻呂は、一週間も経たぬうちに大後悔する羽目になるのだった。
この女、とにかく使い物にならない。
昭和の名曲の歌詞にある
『炊事洗濯まるでダメ。食べることだけ三人前』
を地で行ってるのだ。
いっそ『プイと出たきりハイそれまでヨ』
になってもらいたい所なのに、

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四神京詞華集/シンプルストーリー(14)

四神京詞華集/シンプルストーリー(14)

【悪い黄門さま】

○人さらいのアジト(夜)
闇と同化するような濃い紫の袍(ローブ)と胞(マント)に身を包み、冠に雑面をつけた偉丈夫が現れる。
盗賊どもは幾分緊張し、だが表向きは平静を装い酒を飲み続ける。

雑面の偉丈夫「待たせたな」
盗賊1「いや」
盗賊2「お一人ですかい?」
雑面の偉丈夫「他の者には任せられん」
盗賊1「さすがは名高き悪黄門さまだ。肝が据わっとる」

雑面を取る、偉丈夫。

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四神京詞華集/シンプルストーリー(13)

四神京詞華集/シンプルストーリー(13)

【上京少女】

昔々、まだ役者紛いの真似を渋谷だの下北だのでしてた頃。
あるかなり有名な演目を行う機会に恵まれて、主役を演じた人がその後とてつもなく出世されたり作品を描かれた方も観に来られたりと我ながらおもっくそ自慢できるくらい人生イチ景気のいい時代だったのだが、今思い返すのはそんな素敵な思い出でなく、戯曲に描かれたヒロインの事ばかりである。
この年月を経てもひとことで言い表せない凄まじい物語を浅

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四神京詞華集/シンプルストーリー (12)

四神京詞華集/シンプルストーリー (12)

【Search】

○尊星宮(夜)
さて毎度クッドいト書きから入るが当然話数稼ぎと思って貰って構わない。
皆様も忙しくてこんな戯言に付き合ってられないだろうし、私もそれなりに忙しいのでウインウインだな。
こちら北極星の下、枯野に鎮座する尊星宮。
古めかしいがいにしえの趣には遠く及ばない、おそらく四神京遷都と同時期に建立されたのであろう小さな社殿。
拝殿と本殿を幣殿で繋ぐ、まあどこの市町村にもあるた

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四神京詞華集/シンプルストーリー (11)

四神京詞華集/シンプルストーリー (11)

【夢物語】

ナミダ「遣天竺使……」
菜菜乎「そう」
ナミダ「……」
菜菜乎「……なによ」
ナミダ「す、凄いじゃないですか~っ!」
菜菜乎「そ、そう?」
ナミダ「遣天竺使の話は公達や姫君達の言の葉にも上る程の噂、宮中の伝説になっていたんです。まさか本当だったなんて」
菜菜乎「ふ、ふ~ん。そ~なんだ~」

仏マニアのナミダが見せる羨望の眼差しを受け菜菜乎は完全勝利を確信し、陶酔した。
そうなると心の

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四神京詞華集/シンプルストーリー (10)

四神京詞華集/シンプルストーリー (10)

【選ばれた女】

○白面酒房・控えの間(夕)
鏡を前に化粧花鈿を施している宴の花の乙女達。
ナミダは依然、お面を被ったまま先輩にお茶を出している。

織乎「それ、蒸れない?」
ナミダ「ムレムレっす」
織乎「外せば?」
ナミダ「いやいや結構きついっすよ、中身。泣きだしちゃう人もいるんじゃないかな~? デュフフフ……」
織乎「夜の華を侮らないでよね」

乙女達、ふと神妙になる。

織乎「呪いこそ受けち

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四神京詞華集/シンプルストーリー (9)

四神京詞華集/シンプルストーリー (9)

【悪黄門有鹿】

○白面酒房(夜)
ナミダ「粗茶でございます」

後世の、茶運び人形を彷彿とさせるアクションで入退場するお面禍人女など一顧だにせず、悪黄門はじっと菜菜乎を見据える。
悪黄門とは『強い中納言』という意味である。
目力もかなり、つおい。
菜菜乎は自分が値踏みされる立場にあることは充分承知の上で、だが悪黄門こと中納言蘇我有鹿卿を観察していた。
田舎女の分際で何目線なのだと問われれば、これ

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四神京詞華集/シンプルストーリー(8)

四神京詞華集/シンプルストーリー(8)

【オミズノハナミチ(後編)】

さて、遅れをとっているのは宴の花の乙女たちだ。
しかしそこはそれプロフェッショナルとして内心はどうあれ笑顔を崩さず、それでいて女として確実にチクチクと攻めに出はじめる。
白面酒房は宴の園。
宴の園はもちろん、女の戦場である。
「自分、先陣(ブッコミ)いきます!」
とばかりに口火を切ったのは菜菜乎だった。

菜菜乎「でもナミダちゃんってさあ。本当に禍人なの?」
ナミダ

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四神京詞華集/シンプルストーリー(7)

四神京詞華集/シンプルストーリー(7)

【オミズノハナミチ(前編)】

○白面酒房
宴の花たる乙女×2
ヘルプ×1
お面×1
第三テーブル、現在のメンバー配置である。
貧民窟の酒場とて馬鹿にしたものではない。
むしろ貧民は立ち入ることなどできない。
ここは都の官僚が思い切り羽を伸ばし羽目を外す場所。
こう見えて社員教育も緘口令もバッチリな超一流スナックである。
故にどんな器量よしだろうと痣持ち禍人のお面装着は必須である。
引かれるから。

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