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教育方針

これはとある国の話である。今日はここで教育方針に関する会議が開かれることになっていた。教育に携わっている有識者、大臣、また一部の企業の幹部も呼ばれた。大臣を議長として置き、彼らでこれからの教育方針を話し合って決めるのだ。
会議が始まった。最初に口を開いたのはとある企業の幹部の者だった。
「最近は自分で考えず指示を待つ若者が多すぎます。1人では何もやろうとしない」
多くの企業幹部はそれに賛同した。
「私もそう感じることが多々ありました。今の若者には覇気が感じられないのです。向上心もなく、安定した生活しか望まない。内向きで外に出て行こうともしません」
「その通りです。少しくらい空気を読まずに、どんどん前へ前へ突っ走って引っ張ってくれる人材が欲しいものですよ」
企業の幹部たちは次々と口を開き、それに賛同の声をあげた。
「確かに、近年は内向き志向が強いのは話題に挙がりますね」
と大臣が言った。
「やはり、これまでの教育方針は間違っていたということですよ。今までは子供達の自主性に任せた教育がメインでしたが、多少はこういった人物像が理想だ、というような目標を定めてあげたほうが良いのではないでしょうか。これは我々の社会や経済にとっても重要なことですから」
「全部を元に戻せとは流石に私も言いませんが、温故知新という言葉もあるように、自分たちが経験して良かったものは良かったもので再導入してもいいかもしれません」
「では理想の人物像とは、どういった人材とお考えでしょうか。お意見をお聞かせ願えますか」
「やはりこれまでの経済を支えてきた、我々世代のような人物でしょう。私たちが若い頃は今出てきたような話なんてこれっぽっちもありませんでしたからね、我々の時代は周りの連中と切磋琢磨し、全員がアグレッシブに戦っていました。全員で企業の業績を伸ばそうと努力してきたものです」
「ポジティブで向上心もしっかりありましたし、若手全員が全員自発的に動き活気があったものですよ」
「確かにそれがこれからの国づくりにおいて大事な人材となってくるかもしれませんね…」


こうして議論は進んでいった。特に反対意見が出ることもなく、会議が終わったのはそれほど遅い時間でもなかった。
「では、今後の教育方針のキーワードといたしまして、個々人の自主性を高める、積極性を高める、外向志向が理想となるよう努める、これら3つでよろしいでしょうか。これでよろしければ拍手でお答えください」
全員が拍手で応え、
「全会一致ということで今回はこれまでにしましょう。次回は今回決まったポイントをどうやって伸ばしていくか、更に具体案を考えて行こうと思います。次回も是非よろしくお願いします」
と議長が締め括った。
「将来、この国がより良い方向になるよう願いましょう」
誰かが言った。


                  ***


それから数年後。
今日はここで教育方針に関する会議が開かれることになっていた。教育に携わっている有識者、大臣、また一部の企業の幹部も呼ばれた。大臣を議長として置き、彼らでこれからの教育方針を話し合って決めるのだ。
会議が始まった。最初に口を開いたのはとある企業の幹部だった。
「最近の若いものは何事に対しても我先にと図々しく、協調性なんてあったものじゃありません」
多くの企業の幹部がそれに賛同した。
「私もそう感じることが多々ありました。自分のことを第一に考えすぎる者が多すぎる。外向的なのが一番だと履き違えている輩すらいる始末です。外向的な人材内向的な人材どちらも必要だというのに」
「その通りです。今自分は何を求められているのかを理解できる、多少大人しくても内なる野心を秘め、客観的な視点を持った人材が欲しいものです」
「確かに、昨今は若者の自己主張の激しさが問題によく上がりますね」
と大臣が言った。
「やはりこれまでの教育方針は間違っていたんですよ。今の教育は教育者や教育機関が理想を押し付けているようで私は嫌いです。私の考えとして、子供の本分は自ら考え行動することにあると思っていますから。」
「その通りだと思います。人から押し付けられたものをやっているだけでは、それは別の人が決めたレールを走っているだけな気がしますね」
「そうでしょう、過去にそんな話は聞いたことがありませんでしたよ。私たちが若い頃には皆周りの意見を聞きより自分を高めようと努力に努力を重ねたものです。」
「相手の考え、意見を汲み取り落ち着いた関係を作りながら、高い水準で安定した業績を残してきたのですから、これは大事なことだと思いますよ」
「確かに、これからの国づくりでそのような人材は必要になってくるかもしれませんね…」


こうして議論は進んでいった。特に反対意見も出なかったため、今回の会議自体はそれほど長くはなく、予定通りか、それより早いペースで進んだ。
「ではこれからの教育方針といたしまして、人の気持ちを汲み取れるような人間性を創出する、協調性を高める、外向志向と内向志向共に共存できるような教育に努める、この3つでよろしいでしょうか。これでよろしければ、拍手で応えていただけると幸いです。」
全員が拍手で返し、それを見て議長が続けた。
「賛成多数とお見受けしましたので、今回はここまでとさせていただきます。次回は今回決まった点についてどうやっていくか、より具体的な議論にしていきたいと思っています。次回も近日中にご連絡しますので、その時もよろしくお願いいたします」
こうして議長が会議を締めくくり、解散となった。
「未来の若者たちに期待しましょう。将来が楽しみです」
誰かがそう言った。


                 ***


それから数年後。
今日はここで教育方針に関する会議が開かれることになっていた。教育に携わっている有識者、大臣、また一部の企業の幹部も呼ばれた。大臣を議長として置き、彼らでこれからの教育方針を話し合って決めるのだ。
会議が始まった。最初に口を開いたのはとある企業の幹部の者だった。開口一番、こう言った。
「最近の若い者達は…」

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